海外に住む子へ贈与するときの相続時精算課税
110万円以下でも届出が必要?
贈与税が0円でも、「何もしなくてよい」とは限りません。初めて制度を選ぶ年と、すでに選択済みの年では、必要な手続が異なります。
海外に住む子や孫へ110万円以下の財産を贈与し、その年に初めて相続時精算課税を選択する場合、贈与税の申告書が不要でも「相続時精算課税選択届出書」は期限内に提出する必要があります。
一方、同じ贈与者についてすでに相続時精算課税を選択済みで、その年の対象贈与が基礎控除額以下である場合には、原則として改めて選択届出書を提出する必要はありません。
海外居住者の場合は、これに加えて、国内の住所・居所、贈与税の課税範囲、納税地、納税管理人、提出方法を早めに確認します。
まず確認|今回が「初年度」か「2年目以降」か
110万円以下でも選択届出書が必要
贈与税の申告義務がない場合でも、相続時精算課税を選ぶための届出は別に必要です。
毎年、選択届出書を出す制度ではありません
同じ特定贈与者についてすでに選択済みで、その年の対象贈与が基礎控除額以下であれば、通常は贈与税申告も再度の選択届出も不要です。
110万円以下でも、初年度の選択届出書を期限内に提出しなければ、その年から相続時精算課税を選択することは原則としてできません。
よくある失敗|「100万円だから何もしなくてよい」
日本に住む父が、海外に生活の本拠を移した子へ、日本の預貯金100万円を贈与するケースを考えます。
子は今回の贈与から相続時精算課税を選択する予定です。令和6年1月1日以後の相続時精算課税には年110万円の基礎控除があるため、他の対象贈与がなければ、100万円の贈与について贈与税額は生じず、贈与税の申告書も原則として不要です。
相続時精算課税を初めて選ぶ年には、贈与税申告書の要否とは別に、相続時精算課税選択届出書を期限内に提出しなければなりません。期限を過ぎてから、当初の予定どおりに遡って選択することは原則としてできません。
「贈与税申告」と「選択届出」は別の手続です
| 確認事項 | 贈与税の申告書 | 相続時精算課税選択届出書 |
|---|---|---|
| 目的 | その年の贈与税額を申告する | 相続時精算課税を選択する意思を届け出る |
| 110万円以下の場合 | 基礎控除後の課税価格がなければ原則不要 | 初めて選択する年は必要 |
| 毎年必要か | 申告義務がある年に提出 | 同じ特定贈与者について原則として初年度のみ |
| 期限徒過の影響 | 内容により期限後申告等の問題 | その年からの相続時精算課税選択が原則不可 |
海外に住む子への贈与では、何を追加確認するのか
- 本当に日本の税法上、国内に住所がない状態か
- 国内に「居所」が残っていないか
- 贈与者・受贈者の国籍と過去の国内居住歴
- 贈与する財産が国内財産か国外財産か
- 相続時精算課税の年齢・続柄要件を満たすか
- 受贈者の納税地をどこにするか
- 納税管理人を定める必要があるか
- 戸籍等の添付書類を期限までに用意できるか
- 書面提出かe-Tax提出か
- 贈与先の国で贈与税・所得税・報告義務がないか
日本の贈与税だけでなく、居住国側の税制や申告義務が生じることがあります。外国税制については、現地専門家との確認が必要です。
納税地と納税管理人は、期限直前ではなく先に確認します
相続時精算課税選択届出書は、受贈者の納税地を所轄する税務署長へ提出します。そのため、海外居住者の案件では、まず提出先を確定できる状態にする必要があります。
また、国税通則法上の納税管理人の事務範囲には、申告書だけでなく、国税に関する申請・請求・届出その他の書類の作成・提出や、税務署からの書類受領も含まれます。
- 受贈者の国内住所・居所と居住実態を確認
住民票だけで決めず、生活の本拠や国内滞在状況も確認します。 - 贈与税の課税範囲と納税地を確認
贈与者・受贈者の住所、国籍、国内居住歴、財産所在地を整理します。 - 納税管理人の要否と人選を確認
必要な場合は、国内で継続的に連絡・書類受領ができる人を選びます。 - 選択届出書と添付書類を準備
戸籍等は取得に時間を要することがあるため、早めに着手します。 - 提出方法と到達確認を決める
書面提出、送付、e-Tax等のうち、期限内提出を確実に確認できる方法を選びます。
必要書類|初年度に準備するもの
基本となるのは、相続時精算課税選択届出書と、受贈者の続柄・生年月日等を確認できる戸籍謄本または抄本等です。具体的な添付書類は、贈与者と受贈者の関係、特例の利用有無などにより異なります。
主な書類
- 相続時精算課税選択届出書
- 受贈者の戸籍謄本または抄本等
- 贈与税申告が必要な場合は贈与税申告書
- 必要に応じて納税管理人届出書
- 必要に応じて納税地に関する手続書類
早めに確認する事項
- 海外から戸籍等をどう取得するか
- マイナンバー・本人確認書類の取扱い
- 電子提出に必要な利用者識別番号等
- 税務署からの通知を誰が受けるか
- 提出後の受信通知・控えをどう保管するか
税理士はここを見る
1.制度選択が本当に有利か
110万円が相続時に加算されない点だけでなく、撤回できないこと、将来の値上がり・値下がり、相続税申告、他の相続人との公平まで確認します。
2.贈与の成立と証拠
資金移動だけでなく、贈与者・受贈者双方の意思、贈与契約、受贈者による管理・支配を確認します。
3.海外居住者の課税範囲
「海外に住んでいる」という一言では決まりません。国籍、過去の居住歴、財産所在地を確認します。
4.期限内提出の証明
期限当日の準備ではなく、添付書類、提出先、電子送信環境、受信通知まで含めて逆算します。
セルフチェック
- 今回が、その贈与者について相続時精算課税を初めて選ぶ年である
- 贈与者の年齢と受贈者の年齢・続柄を確認した
- 贈与額が110万円以下だから手続不要、とは考えていない
- 受贈者の国内住所・居所の有無を確認した
- 贈与者・受贈者の国籍と過去の居住歴を確認した
- 贈与財産の所在地を確認した
- 提出先税務署を確認した
- 納税管理人の要否を確認した
- 戸籍等の添付書類を準備できる
- 居住国側の税務も確認した
よくある質問
Q.100万円の贈与なら、贈与税申告も選択届出も不要ですか?
Q.すでに前年に相続時精算課税を選んでいます。今年も届出が必要ですか?
Q.期限を過ぎた後に届出を出せば認められますか?
Q.海外に住んでいれば、必ず納税管理人が必要ですか?
Q.海外からe-Taxで提出できますか?
Q.日本で税金がかからなければ、居住国でも何もしなくてよいですか?
当事務所の考え方
相続時精算課税は、110万円以下の贈与であっても、制度選択そのものが将来の相続税計算や申告に影響します。単に「今年の贈与税が0円になるか」で決める制度ではありません。
特に海外居住の子や孫への贈与は、日本の贈与税だけでなく、住所・居所、国籍、居住歴、財産所在地、納税地、納税管理人、提出方法、居住国側の税務まで確認項目が増えます。
当事務所では、制度を先に当てはめるのではなく、ご家族の状況、贈与の目的、将来の相続、他の相続人との関係まで整理したうえで、実行するか、時期を変えるか、別の方法を選ぶかを検討します。
海外に住むご家族への贈与は、実行前の確認が重要です
贈与額が110万円以下でも、初年度の選択届出、納税地、納税管理人、居住国側の税務など、確認すべき事項があります。
お問い合わせ 0422-07-5393関連ページ・公的資料
- 生前贈与について
- 国税庁 No.4103 相続時精算課税の選択
- 国税庁 No.4304 相続時精算課税選択届出書に添付する書類
- 国税庁 No.4432 受贈者が外国に居住しているとき
- 国税庁 国税通則法第117条関係 納税管理人
本ページは一般的な制度説明です。実際の適用は、贈与時点の法令、当事者の住所・居所、国籍、居住歴、財産所在地等により異なります。


















