不動産賃貸業の法人化|個人と法人どちらが有利?
税金・社会保険・移転コスト・相続まで比較して判断します。
更新日:2026年8月19日
不動産の法人化は、法人を作れば自動的に節税になる制度ではありません。 何を目的に、誰が不動産を所有し、家賃を誰に帰属させるのかによって、 選ぶ方式も初期コストも将来の相続も変わります。
「家賃収入がいくらなら法人化」という一律の基準では決められません。 まず次の3段階で候補を絞ります。
1.不動産法人化には5つの方法があります
「法人化」という言葉は一つでも、誰が不動産を所有し、誰が家賃を受け取り、 法人に何をさせるのかによって税務・社会保険・相続の結果は変わります。 最初に5つの型を分けることが重要です。
2.5つの方法を、所有・家賃・初期コストで比較
同じ「法人活用」でも、不動産の所有者、家賃の帰属先、初期コストが異なります。 まず全体像を比較してから、目的と物件の状況に合う方式へ進みます。
3.何のために法人化するのかで候補は変わります
所得税を軽減したいのか、家族へ所得を分散したいのか、次の物件を取得したいのか、 相続・承継を整えたいのかで適切な方式は変わります。 税率だけで方式を選ばないことが重要です。
4.5方式の考え方|親ページでは判断基準に絞ります
このページでは「どの方式を詳しく検討すべきか」を判断するための要点に絞ります。 管理料、転貸賃料、土地使用関係、相続税評価等の詳細は専用ページで確認してください。
1.管理会社方式
不動産は個人所有のまま、法人が実際の管理業務を行い、その対価として管理料を受け取る方法です。
- 不動産移転コストを抑えやすい
- 法人が実際に行う管理業務を明確にする
- 管理料は一律の%ではなく、業務実態と対価の合理性で考える
- 既存の外部管理会社との業務重複に注意する
2.サブリース方式
法人が個人オーナーから物件を借り上げ、法人が入居者へ転貸する方法です。
- 個人・法人間の賃料の合理性を確認する
- 空室リスクを誰が負う契約なのか明確にする
- 住宅・店舗等により消費税の取扱いが変わり得る
3.建物だけ法人
土地は個人所有のまま、賃貸建物を法人所有にする方法です。 家賃収入を法人側へ移しやすい一方、法人が個人所有地を使う新しい税務関係が生じます。
- 建物移転時の税金・登記等の初期コスト
- 建物の適正な時価
- 地代・権利金・無償返還届出等の土地使用関係
- 相続時の土地と自社株の評価
4.土地・建物まで法人へ移転
土地・建物を個人から法人へ売却・移転し、法人を不動産賃貸事業の所有・運営主体にする方法です。
- 個人側の譲渡所得
- 法人側の不動産取得税・登録免許税等
- 建物等の譲渡に係る消費税
- 金融機関の承諾、借換え、担保・保証
初期コストが大きくなりやすいため、年間の節税額だけでなく回収年数で判断します。
5.新規取得を法人で行う
これから取得する物件を最初から法人名義で購入する方法です。 既存資産の「個人→法人」の移転を避けられるため、物件拡大を予定している場合に比較したい選択肢です。
- 既存物件の移転税負担を避けやすい
- 融資・自己資金・役員報酬まで含めた資金計画を確認する
- 将来の株式承継も最初から設計する
5.法人化は「税金」だけでなく「社会保険」まで比較します
所得税率と法人税率だけを比べても、最終的な手取りは分かりません。 法人事業所は原則として健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所となり、 その事業所に使用され、加入要件を満たす役員・従業員等は被保険者となります。 一方、無報酬役員しかいないなど被保険者となる者がいない場合は、個別確認が必要です。
役員報酬を設定すると、個人側の所得税・住民税、法人側の損金、給与所得控除だけでなく、 健康保険・厚生年金の負担と将来給付も動きます。 役員給与には定期同額給与、事前確定届出給与等の損金算入ルールもあります。
6.既存不動産を法人へ移すなら、入口の税金と費用を先に試算します
個人所有の不動産を法人へ移す場合、法人化後の年間負担だけを比較してはいけません。 移転時に一度発生する税金・登記・融資等のコストを先に把握します。
| 区分 | 主な確認事項 |
|---|---|
| 個人側 | 譲渡所得税・住民税、取得費、譲渡費用、売買価格 |
| 法人側 | 不動産取得税、登録免許税・登記費用、取得価額、減価償却、借入 |
| 取引全体 | 建物等の消費税、金融機関の承諾・借換え、担保・保証 |
個人から法人へ売却するときは「価格」が重要です
個人が法人へ土地・建物を時価の2分の1未満で譲渡した場合、 所得税では時価を収入金額として譲渡所得を計算する取扱いがあります。 ただし、2分の1以上なら必ず問題がないという意味ではありません。 同族会社との取引では、所得税法157条による行為計算否認を含め、 価格・条件の合理性を個別に確認する必要があります。
また、同族会社へ財産を無償または著しく低い価額で提供・譲渡し、 その結果として株式価値が増加した場合には、 株主側に相続税法9条・相続税法基本通達9-2による贈与税上の問題が生じることがあります。 売主個人、法人、株主それぞれの課税関係を確認します。
建物だけ法人の税務・土地使用関係を詳しく見る
7.法人化の「節税額」ではなく、初期コストの回収年数を見ます
既存不動産を法人へ移す場合には、年間の節税効果だけを見ると判断を誤ることがあります。 当事務所では、税金・社会保険・法人維持費等を反映した 年間の手取り改善額を確認し、初期コストを何年で回収できるかを一つの重要な判断材料にします。
8.税務調査で重要になるのは「法人を作った事実」より取引の実態です
とくに管理会社方式や同族法人との取引では、契約書があるだけでは十分ではありません。 実際に何を行ったのか、その対価に合理性があるか、資金の流れを説明できるかを確認します。
- 実態:法人が実際に業務を行っているか
- 業務内容:誰が何を行ったか具体的か
- 対価:管理料・賃料・地代・役員報酬に合理性があるか
- 業務重複:既存管理会社等と同じ業務を二重に計上していないか
- 契約:書面と実際の取引が一致しているか
- 継続性:同様の処理を継続しているか
- 資金の流れ:入出金記録・証憑が整っているか
※上記は一般的な同族会社取引・税務調査対応上の確認事項を整理したものであり、 税務署内部の個別チェックリストを示すものではありません。
9.法人化は「今の節税」だけでなく、相続時の財産の形まで変えます
個人が不動産を所有し続ければ、相続時には土地・建物が相続財産です。 一方、法人が不動産を所有する場合、オーナー個人が保有する 非上場株式(自社株)の評価が重要になります。
法人に不動産を入れれば相続税がなくなるわけではありません。 株主区分、会社規模、資産構成、取引相場のない株式の評価方法、 土地保有特定会社等への該当可能性、誰に株式を承継するかまで確認します。
不動産法人化と相続税・自社株評価を詳しく見る自社株そのものの承継方法を確認したい方は、 自社株式の承継対策 もご覧ください。
10.法人化を検討するときのセルフチェック
法人化を具体的に比較したいケース
- 不動産所得に加えて給与・事業など他の所得も大きい
- 今後も収益物件を取得する予定がある
- 家族が実際に賃貸経営・管理に参加している
- 賃貸経営を子世代へ引き継ぎたい
- 相続税まで含めて不動産保有の形を見直したい
法人化を急がず比較したいケース
- 既存物件の含み益が大きく、移転時の譲渡税が重い
- 借入・担保関係の変更が難しい
- 法人維持費・社会保険まで含めると手取り差が小さい
- 近い将来に不動産を売却する予定がある
- 法人化の目的が「何となく節税」だけになっている
11.税理士は最初にここを確認します
| 確認事項 | なぜ必要か |
|---|---|
| 個人の不動産所得・その他所得 | 所得税・住民税と法人側負担を比較するため |
| 物件別の家賃・経費・減価償却・借入 | 法人化前後の年間収支を比較するため |
| 土地・建物の取得費と現在価額 | 譲渡所得・初期コストを把握するため |
| 今後の購入・売却予定 | 既存物件を移すか、新規取得から法人にするか判断するため |
| 家族構成・業務参加 | 役員報酬・所得分散・承継の実態を確認するため |
| 社会保険加入状況 | 税金だけでなく最終手取りを比較するため |
| 相続財産・推定相続税 | 不動産評価と法人株式評価の両方を比較するため |
| 金融機関・担保・保証 | 税務上有利でも実行できない設計を避けるため |
12.不動産法人化のよくある質問
一律の金額では判断できません。不動産所得以外の所得、家族への報酬、社会保険、法人維持費、今後の取得予定、既存不動産を移す場合の税負担まで含めて比較します。
はい。管理会社方式やサブリース方式など、不動産の所有権を個人に残したまま法人を活用する方法があります。ただし、契約だけでなく実際の業務・賃貸借の実態と対価の合理性が必要です。
有効な場合があります。ただし、建物移転時の税金・費用に加え、個人所有地を法人が使用する関係を整理する必要があります。地代、権利金、無償返還届出、相続時の土地・自社株評価まで確認します。
実際の職務内容と報酬額の合理性、役員給与の損金算入ルール、社会保険まで確認する必要があります。「家族だから自由に給与を払える」というものではありません。
既存物件の含み益や借入状況で大きく変わります。既存物件を移す場合は譲渡所得税・不動産取得税・登録免許税等が生じ得るため、新規取得から法人にする方が入口コストを抑えやすいケースがあります。
有効なケースはありますが、法人化=相続税が必ず下がるわけではありません。不動産を法人が所有すると、個人側では法人株式の評価が重要になるため、自社株評価・株主構成・承継方法まで確認します。
13.当事務所の考え方|法人を作ること自体を目的にしません
不動産法人化で重要なのは「法人の方が税率が低いか」だけではありません。 個人所有を続ける、管理会社を使う、サブリースを使う、建物だけ法人化する、 土地・建物まで法人へ移す、新規取得から法人にするという選択肢を並べ、 現在から将来までの手取りと資産承継を比較することです。
特に既存不動産を動かす場合は、入口で発生する税金・登記・融資等のコストを何年で回収できるかを確認します。 また、将来の相続を予定する不動産では、不動産そのものの評価だけでなく、法人株式の評価までつなげて検討します。
物件ごとの収支、借入、取得費、現在価額、個人の所得、家族構成、今後の取得・売却予定が分かると、 「法人化できるか」ではなく「法人化した方がよいか」を具体的に比較しやすくなります。
不動産法人化について相談する14.このページの主な根拠・参考資料
※税制・社会保険制度は改正される場合があります。実行時点の法令・通達・公的資料で再確認してください。 本ページは一般的な判断材料を整理したもので、個別案件の税務上の結論は物件、所得、株主構成、契約、融資、相続状況等によって異なります。


















