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不動産賃貸業の法人化|個人と法人どちらが有利?税金・社会保険・相続まで比較

不動産オーナーの法人化判断ガイド

不動産賃貸業の法人化|個人と法人どちらが有利?税金・社会保険・相続まで比較

不動産の法人化は「法人を作れば節税できる」という単純なものではありません。 管理会社を使う方法、法人へ転貸する方法、建物だけを法人所有にする方法、土地・建物を法人へ移す方法、新しく取得する物件から法人所有にする方法があります。 現在の税負担だけでなく、社会保険、移転コスト、融資、将来の売却、相続・自社株評価まで含めて比較することが重要です。

30秒で結論
「家賃収入がいくらなら法人化」という一律の基準では判断できません。 まず目的を明確にし、既存不動産を動かす必要があるかを分け、最後に 初期コスト ÷ 年間の手取り改善額=損益分岐点年数 を確認します。そのうえで相続時の土地・建物・自社株まで見通して判断します。
① 目的を決める所得税、所得分散、物件拡大、相続、管理承継のどれを重視するか。
② 方式を選ぶ管理会社・サブリース・建物法人・土地建物法人・新規取得を比較。
③ 回収年数を見る移転税・登記等の初期コストを年間の手取り改善額で何年で回収するか。
④ 相続まで見る法人所有にすると相続対象は不動産から法人株式へ変わる点も確認。
不動産法人化の判断フロー。法人化の目的から方式を選び、既存不動産の移転、税金・社会保険・移転コスト、損益分岐点、相続まで確認する流れ
不動産法人化は、目的→方式→移転の要否→年間負担→回収年数→相続の順に整理すると判断しやすくなります。
スマートフォン向け不動産法人化の判断フロー
スマートフォンでは縦型の判断フローをご覧ください。

不動産法人化には5つの方法があります

「法人化」という言葉は一つでも、誰が不動産を所有し、誰が家賃を受け取り、法人に何をさせるのかによって税務とコストは大きく変わります。 最初に5つの型を分けて考えることが重要です。

不動産法人化の5つの方法。管理会社方式、サブリース方式、建物だけ法人、土地建物まで法人へ移転、新規取得を法人で行う方法
大切な点: 「法人を設立すること」と「既存不動産の所有権を法人へ移すこと」は別問題です。 管理会社方式やサブリース方式なら個人所有を維持できます。既存物件を法人へ売却・移転する場合は、別途、譲渡所得税・不動産取得税・登録免許税、 建物等の譲渡に係る消費税(課税事業者等の場合)、融資などの問題を検討します。

5つの方法を、所有・家賃・初期コストで比較

同じ「法人活用」でも、初期費用の大きさと家賃収入の帰属先が異なります。 まず全体像を比較し、その後に目的と物件の状況に合わせて候補を絞ります。

不動産法人化5方式の比較一覧。不動産所有者、家賃等の流れ、初期コスト、主要論点を比較

何のために法人化するのかで、候補は変わります

法人化の目的が「所得税を下げたい」のか、「家賃収入を法人へ移したい」のか、「相続・承継を考えたい」のかで適切な方式は異なります。 税金だけで方法を決めないことがポイントです。

法人化の目的と5つの方式の適合度を比較した早見表

5方式の考え方|親ページでは「判断基準」に絞ります

所有権を動かさない

1.管理会社方式

不動産は個人所有のまま、法人に実際の管理業務を委託し、管理料を支払う方式です。

  • 初期の不動産移転コストを抑えやすい
  • 法人が実際に行う管理業務を明確にする
  • 管理料は「何%なら安全」ではなく業務実態と対価の合理性で考える
  • 既存の外部管理会社との業務重複に注意する
所有権を動かさない

2.サブリース方式

法人が個人オーナーから物件を借り上げ、法人が入居者へ転貸する方式です。

  • 個人には法人から賃料、法人には転貸収入が生じる
  • 個人・法人間の賃料の合理性を検討する
  • 空室リスクを誰が負う契約か確認する
  • 住宅・店舗等により消費税の取扱いが変わり得る
建物のみ移転

3.建物だけ法人

土地は個人所有のまま、賃貸建物を法人所有にする方式です。家賃収入は原則として建物所有者である法人側に帰属します。

  • 建物の法人移転に伴う譲渡・取得・登記コストを確認
  • 個人の土地を法人が使用する法律・税務関係を設計
  • 地代、権利金、無償返還届出等の検討が必要になる場合がある
  • 相続時の土地評価とのつながりまで確認する
所有権を大きく動かす

4.土地・建物まで法人へ移転

土地・建物を個人から法人へ売却・移転し、法人が不動産と賃貸事業の主体になる方法です。

  • 個人側の譲渡所得税
  • 法人側の不動産取得税・登録免許税・登記費用
  • 建物等の譲渡に係る消費税(課税事業者等の場合)
  • 金融機関の承諾・借換え・担保設定

初期コストが大きくなりやすいため、年間メリットではなく回収年数で判断します。

新しい物件から

5.新規取得を法人で行う

これから取得する物件を最初から法人名義で購入する方法です。 個人所有の既存不動産を法人へ移す場合と異なり、既存資産の「個人→法人」という所有権移転を避けられるため、 物件拡大を予定している場合には最初に比較したい選択肢です。

法人化は「税金」だけでなく「社会保険」まで比較します

所得税率と法人税率だけを比べて「法人が有利」と結論づけると、実際の手取りとずれることがあります。

法人事業所で被保険者となる役員・従業員がいる場合は、原則として健康保険・厚生年金保険の適用対象となります。 そのため、法人化を検討するときは、税金だけでなく社会保険料まで含めて比較することが重要です。

役員報酬を設定すれば、個人側の所得税・住民税、法人側の損金、給与所得控除に加え、 健康保険・厚生年金の負担と将来給付も動きます。

不動産法人化で比較する税金と社会保険のポイント
役員報酬は自由に増減できる経費ではありません。
法人税上、役員給与については定期同額給与、事前確定届出給与等のルールがあり、不相当に高額な部分等は損金算入が制限されます。 家族に報酬を支給する場合も、実際の職務内容や報酬水準を含めて設計します。

既存不動産を法人へ移すなら、入口の税金と費用を先に試算します

個人所有の不動産を法人へ移す場合、法人化後の年間負担が軽くなるかだけでは不十分です。 移転時に一度だけ発生する大きなコストを先に把握する必要があります。

個人側

  • 譲渡所得税・住民税
  • 取得費・譲渡費用の確認
  • 法人への低額譲渡の時価課税

法人側

  • 不動産取得税
  • 登録免許税・登記費用
  • 取得後の減価償却・借入

取引全体

  • 建物等の譲渡に係る消費税(課税事業者等の場合)
  • 金融機関の承諾・借換え
  • 担保・保証関係
個人から法人へ不動産を売却するときは「価格」が重要です。
個人と法人の間で土地・建物を売買する場合、「いくらで売買するか」は税務上、非常に重要です。

個人が法人へ土地・建物を時価の2分の1未満で売却した場合、所得税では時価を収入金額として譲渡所得を計算します。

なお、時価の2分の1以上であれば必ず問題がないという意味ではありません。 同族会社との取引では、所得税法上の同族会社等の行為計算否認規定を含め、 取引価格や取引条件の合理性を個別に確認する必要があります。

また、低額譲渡では売主個人の譲渡所得だけでなく、 法人側の課税関係や、株主構成によっては株式価値の増加に伴う贈与税上の問題 が生じないかについても確認が必要です。

そのため、個人から法人へ不動産を移転する場合には、単に売買価格を決めるのではなく、 時価の把握、価格設定の根拠、個人・法人・株主それぞれの課税関係まで確認したうえで検討すること が重要です。

「建物だけ法人」では、個人の土地を法人がどう使うかまで設計します

土地は個人、建物は法人という形にすると、家賃収入を法人側へ移しやすい一方で、 個人所有地を法人が使用する関係が新しく生まれます。ここを曖昧にしてはいけません。

確認すること

  • 土地賃貸借の契約内容
  • 地代の水準
  • 権利金の取扱い
  • 「土地の無償返還に関する届出」の要否
  • 将来の相続税評価との関係

「建物だけ法人」の目的を明確に

所得分散だけを見ず、建物移転時の税負担、土地利用関係、相続時の土地評価、 法人株式の評価まで一つの設計として確認します。

年間節税額ではなく「何年で初期コストを回収できるか」を見ます

既存不動産を法人へ移す場合には、年間の節税効果だけを見ると判断を誤ることがあります。 当事務所では、法人化による年間の手取り改善額を確認し、初期コストを何年で回収できるかを一つの重要な判断材料にします。

不動産法人化の損益分岐点年数。初期コスト合計を年間の手取り改善額で割り、回収にかかる年数を確認する考え方
考え方:
損益分岐点年数 = 法人化に伴う初期コスト ÷ 年間の手取り改善額
※「年間の手取り改善額」は、税金・社会保険・法人維持費等を反映して比較します。将来の売却・借入・相続等は別途中長期シミュレーションが必要です。

税務署は「法人を作ったか」より、取引の実態を見ます

とくに管理会社方式や同族法人との取引では、契約書があるだけではなく、 実際に何を行い、その対価が合理的で、資金の流れが説明できるかが重要です。

不動産法人化で税務署が確認する共通ポイント。実態、業務内容、対価、業務重複、契約、継続性、資金の流れ
管理会社方式で特に注意: 既に外部の不動産管理会社へ管理を委託している場合は、同族法人が何を追加で行っているのかを説明できるようにします。 管理料についても「家賃の○%なら安全」と一律に決めるのではなく、実際の業務内容・比較対象・記録を確認します。

法人化は「今の節税」だけでなく、相続時の財産の形まで変えます

個人が不動産を持ち続ければ、相続時には土地・建物が相続財産です。 法人が不動産を所有する場合、個人が所有するのは原則としてその法人の非上場株式(自社株)となり、 相続時には株式評価が重要になります。

不動産を個人所有した場合と法人所有した場合の相続財産の違い。個人では土地建物、法人では自社株評価が重要になる
「法人に不動産を入れれば相続税がなくなる」というものではありません。
不動産そのものから法人株式へ相続財産の形が変わるため、株価評価、会社の資産構成、 土地保有特定会社等への該当可能性、誰へ株式を承継するかまで確認します。

また、法人化の効果は、現在所有している不動産を法人へ移すことだけではありません。 今後の家賃収入や資産形成を、個人と法人のどちらに蓄積していくか という視点も、将来の相続・資産承継を考えるうえで重要です。

自社株の承継をさらに確認したい方は、 自社株式の承継対策 もあわせてご覧ください。

法人化を検討するときのセルフチェック

法人化を具体的に比較したいケース

  • 不動産所得に加えて給与・事業など他の所得も大きい
  • 今後も収益物件を取得する予定がある
  • 家族が実際に賃貸経営・管理に参加している
  • 賃貸経営を子世代へ引き継ぎたい
  • 相続税まで含めて不動産保有の形を見直したい

法人化を急がず比較したいケース

  • 既存物件の含み益が大きく、移転時の譲渡税が重い
  • 借入・担保関係の変更が難しい
  • 法人維持費・社会保険を含めると手取り差が小さい
  • 近い将来に不動産を売却する予定がある
  • 法人化の目的が「何となく節税」だけになっている

税理士は最初にここを確認します

確認事項なぜ必要か
個人の不動産所得・その他所得所得税・住民税と法人側負担を比較するため
物件別の家賃・経費・減価償却・借入法人化前後の実際の年間収支を比較するため
土地・建物の取得費と現在価額既存物件を移転した場合の譲渡所得・初期コストを把握するため
今後の物件購入・売却予定既存物件を移すか、新規取得から法人にするかを判断するため
家族構成・実際の業務参加役員報酬・所得分散・承継の実態を確認するため
社会保険加入状況税金だけでなく最終的な手取りを比較するため
相続財産・推定相続税不動産評価と法人株式評価の両方を比較するため
金融機関・担保・保証税務上有利でも実行できない設計を避けるため

不動産法人化のよくある質問

家賃収入がいくらになったら法人化すべきですか?
一律の金額では判断できません。不動産所得以外の所得、家族への報酬、社会保険、法人維持費、 今後の取得予定、既存不動産を移す場合の税負担まで含めて比較します。
不動産を法人へ移さず、法人だけ作ることはできますか?
はい。管理会社方式やサブリース方式など、不動産の所有権を個人に残したまま法人を活用する方法があります。 ただし、契約だけでなく実際の業務・賃貸借の実態と対価の合理性が必要です。
建物だけ法人へ移す方法は有効ですか?
有効な場合がありますが、建物移転時の税金・費用に加えて、個人所有の土地を法人が使用する関係を整理する必要があります。 地代、権利金、無償返還届出、相続時の土地評価まで一体で確認します。
家族を役員にして給与を払えば節税できますか?
実際の職務内容と報酬額の合理性、役員給与の損金算入ルール、社会保険まで確認する必要があります。 「家族だから自由に給与を払える」というものではありません。
既存物件を法人へ売却するのと、次の物件から法人で買うのはどちらがよいですか?
既存物件の含み益や借入状況によって大きく変わります。 既存物件を移すと譲渡所得税・不動産取得税・登録免許税等が生じ得るため、 新規取得から法人にする方が初期移転コストを抑えやすいケースがあります。
法人化すれば相続税対策になりますか?
法人化によって将来の財産蓄積の場所や相続財産の形が変わるため、有効なケースはあります。 ただし法人所有の不動産は、個人側では法人株式の価値として反映されるため、自社株評価まで確認して判断します。

当事務所の考え方|法人を作ること自体を目的にしません

不動産法人化で重要なのは「法人の方が税率が低いか」ではありません。 個人で持ち続ける、管理会社を使う、建物だけ法人化する、土地建物まで移す、新規取得から法人にするという選択肢を並べ、 現在から将来までの手取りと承継を比較することです。

特に既存不動産を移す場合は、年間の節税額だけではなく、入口で発生する税金・登記・融資等のコストを何年で回収できるかを確認します。 また、将来の相続を予定する不動産では、不動産そのものの評価だけでなく、法人株式の評価までつなげて検討します。

このページの主な根拠・参考資料

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法人化を検討する前に、まず比較する数字を揃えましょう

物件ごとの収支、借入、取得費、現在価額、個人の所得、家族構成、今後の取得・売却予定が分かると、 法人化した場合と個人所有を続けた場合を具体的に比較しやすくなります。

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この記事を担当した執筆者
佐々木税務会計事務所 共同代表 佐々木謙
保有資格
専門分野相続・贈与・不動産・法人経営
経歴経営コンサルティング会社において約10年間、企業経営や事業承継に関するコンサルティング業務に従事。その後、法律事務所にて約5年間、相続・資産承継に関する実務を経験し、大手税理士法人では約10年間にわたり、相続税申告、財産評価、事業承継、生前対策など資産税業務を専門に担当しました。 これまで培ってきた税務・法務・経営コンサルティングの知見を活かし、一般のご家庭から地主・企業オーナーまで、幅広いお客様の相続・資産承継をサポートしています。 現在は佐々木税務会計事務所の共同代表として、「創族(そうぞく)」を理念に掲げ、相続税申告にとどまらず、生前対策、遺言書作成、家族信託、事業承継など、ご家族の未来を見据えた総合的な相続サポートに取り組んでいます。 相続は税金だけの問題ではなく、ご家族の人生に関わる大切な節目です。税務・法務・経営、それぞれの視点から最適な解決策をご提案し、お客様が安心して未来へ歩んでいただけるよう、分かりやすく実践的な情報発信にも力を入れています。
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