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不動産法人化と社会保険|役員報酬・厚生年金まで含めた判断

不動産法人化・社会保険の判断ガイド

不動産法人化と社会保険|役員報酬・厚生年金まで含めた判断

不動産を法人化すると、所得税や法人税だけでなく、 健康保険・厚生年金などの社会保険も、法人化後の負担として考える必要があります。 特に、役員報酬をいくらにするかによって、本人の手取り、会社の負担、厚生年金の計算に使われる標準報酬月額が変わります。

30秒で結論
  • 法人事業所は、従業員数が少なくても、原則として健康保険・厚生年金の適用対象です。法人化すれば社会保険も含めて考えます。
  • 役員報酬を受ける代表者・役員は、社会保険の対象となるのが基本です。報酬額だけで単純に加入・非加入を決めることはできません。
  • 社会保険料は本人だけでなく会社も負担します。そのため、法人化による税負担の改善額だけでなく、会社負担分まで含めて比較する必要があります。
  • 厚生年金の保険料は負担ですが、将来の年金額に反映されるため、「負担=すべて損」とは考えません。
  • 60歳以上で年金を受け取りながら役員報酬を受ける場合は、在職老齢年金による年金支給停止も確認します。令和8年4月から基準額は月65万円に引き上げられています。
このページは、こんな不動産オーナーの方へ
  • これから賃貸不動産を法人名義で取得する予定がある
  • 現在の個人所有不動産を法人化することを考えている
  • 家賃収入を法人へ移して、役員報酬を受け取る方法を検討している
  • 法人化すると社会保険料がいくら増えるのか知りたい
  • 60代以降も役員として働き、厚生年金を受け取りたい
  • 法人化による税金のメリットと、社会保険の負担をまとめて比較したい
① 会社の負担 社会保険料は本人だけでなく、会社も負担します。
② 役員報酬 報酬額は手取りだけでなく、社会保険料・税金・将来年金に影響します。
③ 将来の年金 厚生年金保険料の負担と、将来の年金額の関係を確認します。
④ 60代以降 在職老齢年金や70歳・75歳の年齢区分まで見て判断します。

法人化すると、なぜ社会保険を考えるのか

不動産の法人化では、まず所得税・法人税の差を比較しがちです。 しかし、役員報酬を受け取る法人の役員については、健康保険・厚生年金が関係します。 そのため、法人化の効果は、 「税金がいくら下がるか」ではなく、「税金と社会保険を合わせて手取りがどう変わるか」 で確認する必要があります。

個人所有家賃収入
法人化法人を設立・活用
役員報酬法人→個人
社会保険会社+本人
手取り税金・社会保険後
法人化=社会保険料が増える、だけではありません。
厚生年金の加入期間や報酬は、将来の老齢厚生年金額にも関係します。 したがって、現在の負担と将来の給付を一つの表にして考えることが重要です。

法人は社会保険に加入するのか

日本年金機構は、法人事業所など一定の条件を満たす事業所について、健康保険・厚生年金保険の加入が義務付けられていると案内しています。 特に、個人事業と違って「従業員を何人雇っているか」だけで法人の適用を判断することはできません。
日本年金機構|事業所に関する手続き

法人の場合
  • 従業員を雇っていない法人でも社会保険の適用が問題になります。
  • 法人の代表者・役員についても、法人との使用関係、経常的な労務の提供、報酬の状況などを踏まえて被保険者資格を判断します。
  • 「一人会社だから社会保険に入らなくてよい」という整理ではありません。法人事業所自体が適用事業所に該当するかを確認したうえで、各役員・従業員の被保険者資格を判断します。
個人事業の場合
  • 法人とは適用の考え方が異なります。
  • 事業の種類や従業員数などによって扱いが変わります。
  • そのため、「法人化すると社会保険が発生する」という点は、法人化判断のコストとして最初から見積もります。
注意: 法人の社会保険加入義務と、個々の役員・従業員が被保険者となるかどうかは、制度上それぞれ確認します。 「報酬が少ないから自動的に非加入」といった一律判断は避けます。日本年金機構は、役員の資格について、報酬だけでなく法人との使用関係等を総合的に判断する考え方を示しています。

個人のままの場合と、法人化した場合の社会保険はどう変わる?

不動産法人化を検討するときは、法人化後の社会保険だけを見るのではなく、 個人で所有・賃貸を続けた場合と何が変わるのかを並べて確認することが重要です。 ただし、個人側の医療保険・年金は、その方の就労状況、年齢、他の勤務先、扶養関係等によって異なります。

比較 個人で所有・賃貸 法人化後
医療保険 国民健康保険等。勤務先の健康保険に加入している場合などは別の扱いです。 法人の適用事業所として健康保険の加入を確認します。
年金 国民年金が基本。勤務形態等により厚生年金へ加入する場合があります。 役員・従業員について、厚生年金の被保険者資格を確認します。
会社負担 不動産を個人で保有するだけなら、法人の事業主負担はありません。 法人では、健康保険・厚生年金等の事業主負担が発生します。
将来の年金 現在の年金加入状況に応じて決まります。 厚生年金の加入期間・標準報酬等が老齢厚生年金の計算に反映されます。
重要: 「法人化すれば社会保険料が高くなる」「厚生年金だから必ず得になる」と一律に考えるのではなく、 現在の加入状況・年齢・家族構成・役員報酬・法人利益を並べて比較します。

役員報酬は、税金だけでなく社会保険まで含めて決める

役員報酬は、個人の所得税・住民税だけを見て決めるものではありません。 社会保険料の計算に使われる標準報酬月額にも影響するため、 「法人に利益を残すか」「個人へどの程度移すか」「会社負担の社会保険料をどこまで許容するか」を一緒に考えます。 標準報酬月額は、基本給だけでなく各種手当等を含む報酬月額を一定の等級に区分して決めます。

役員報酬を高くすると
  • 個人側へ移る所得が増える
  • 個人の税負担が増える可能性がある
  • 社会保険料の負担も増えやすい
  • 一方で厚生年金の計算に反映される報酬も増える
役員報酬を低くすると
  • 個人側への移転額を抑えられる
  • 社会保険料も低くなる可能性がある
  • 法人に利益を残しやすくなる
  • ただし、個人の手取りや将来の年金とのバランスを確認する必要がある
役員報酬は「税率が一番低くなる金額」を探すだけではありません。
「会社に残す利益」「個人の手取り」「社会保険料」「将来の厚生年金」「家族の生活費」まで含めて設計します。

社会保険料は、会社と本人の両方が負担する

厚生年金保険料は、標準報酬月額・標準賞与額に料率を掛けて計算し、事業主と被保険者が折半して負担します。 厚生年金の保険料率は18.3%で固定されています。

健康保険料は都道府県・健康保険者によって異なります。 2026年度の協会けんぽ東京都では健康保険料率9.85%で、 これに2026年4月分から子ども・子育て支援金率0.23%が加わります。 40歳から64歳までは介護保険料率1.62%も加わります。

負担 主な内容 誰が負担する? ポイント
健康保険 医療保険 原則として会社と本人 料率は都道府県・健康保険者等で異なります。
厚生年金 老齢・障害・遺族年金等 会社と本人で折半 保険料負担だけでなく、将来の年金額にも関係します。
介護保険 40~64歳の医療保険加入者 会社と本人 2026年度の協会けんぽは1.62%。
子ども・子育て支援金(2026年4月分から) 2026年4月分から開始 被用者保険では労使折半 2026年度の支援金率は0.23%。

さらに法人側では、子ども・子育て拠出金など、本人の給与から控除するものとは別の事業主負担もあります。 そのため、役員報酬を決める際には「本人の手取り」だけでなく「法人が実際に負担する年間コスト」を確認します。

不動産法人化すると社会保険料はいくら?

役員報酬30万円の具体例で、会社負担と本人負担のイメージを確認します。

金額感をつかむため、2026年度・東京都・協会けんぽ・標準報酬月額30万円を一例として見ます。 実際の負担額は年齢、健康保険者、標準報酬月額、賞与等によって変わるため、ここでは「考え方を理解するための例」としてください。

項目 本人負担(月額の目安) 会社負担(月額の目安)
厚生年金 27,450円 27,450円
健康保険 14,775円 14,775円
子ども・子育て支援金(2026年4月分から) 345円 345円
介護保険(40~64歳の場合) 2,430円 2,430円
会社側の子ども・子育て拠出金(事業主全額負担) ― 1,080円
合計(40~64歳の例) 45,000円 46,080円
この数字を「法人化の判断基準」にしないでください。
これは2026年度・東京都・協会けんぽ・標準報酬月額30万円を使った一例です。 健康保険料率等は地域・制度改定により変わります。 実際の法人化比較では、役員報酬の複数案ごとに年間の本人負担と会社負担を試算します。

厚生年金は「負担」と「将来の年金」を一緒に見る

厚生年金保険料は現在の負担ですが、その加入期間と報酬は、将来の老齢厚生年金額に反映されます。 日本年金機構も、標準報酬月額等を年金額の計算に用いる仕組みを説明しています。

今の視点
  • 会社負担分と本人負担分が発生する
  • 法人化による手取り改善額が社会保険料で小さくなる場合がある
  • 特に利益がそれほど大きくない法人では負担割合を確認する
将来の視点
  • 厚生年金の加入期間が将来の年金に反映される
  • 報酬額も年金額の計算に関係する
  • 「保険料が増えた=損」とは限らない
不動産法人化では「手取り」と「年金」を分けて計算します。
会社と本人の社会保険料を現在のキャッシュフローとして確認し、 その一方で厚生年金の加入による将来の年金額への影響も確認する、という二つの視点が必要です。

60代以降の役員報酬と在職老齢年金|2026年4月から基準65万円

60歳以上で老齢厚生年金を受け取りながら法人の役員として働く場合、 「役員報酬+年金」の組み合わせによっては、在職老齢年金制度により年金の一部または全部が支給停止になる場合があります。

2026年4月から基準が変わっています。
令和8年度から、基本月額と総報酬月額相当額の合計が月65万円以下なら全額支給、 65万円を超える場合は一定の計算により支給停止額が決まります。 2026年3月以前の51万円から引き上げられました。
確認するもの 意味
基本月額 老齢厚生年金の報酬比例部分等を基礎とする月額
総報酬月額相当額 その月の標準報酬月額+過去1年間の標準賞与額の合計÷12
合計65万円 2026年度の在職老齢年金における支給停止判定の基準額

したがって、60代の不動産オーナーでは、 「役員報酬を上げれば個人の手取りが増える」だけでなく、 年金の支給停止まで含めた手取りを比較する必要があります。

70歳・75歳になると何が変わる?

年齢 主なポイント
60歳以上 老齢厚生年金を受給しながら働く場合、在職老齢年金の支給停止を確認します。
70歳以上 厚生年金の被保険者ではなくなりますが、一定の場合は「70歳以上被用者」として在職老齢年金の調整対象となり、届出も必要です。
75歳以上 健康保険は原則として後期高齢者医療制度へ移行します。厚生年金保険料の負担は70歳到達で終了します。
50~70代の法人化では「年齢」を最初から入れる。
50代と69歳、74歳と76歳では社会保険の意味が変わります。 法人化のシミュレーションでは、現在年齢と今後の役員報酬の期間をセットで確認します。

2つ以上の法人から役員報酬を受ける場合

すでに別の法人で役員をしている方が、新しい不動産法人からも役員報酬を受け取る場合は、 「すでに社会保険に入っているから、新法人では手続き不要」とは限りません。

日本年金機構は、2つ以上の法人事業所で役員報酬を受ける場合、それぞれの法人で社会保険の加入手続きを行い、 「二以上事業所勤務」の届出を行う必要があるケースを示しています。 標準報酬月額は各事業所の報酬を合算して決定し、保険料は各事業所の報酬に応じて按分します。

よくあるケース
  • 既存の会社で役員報酬を受けている
  • 新たに不動産管理・賃貸法人を設立する
  • 新法人からも役員報酬を受け取る
確認すること
  • 各法人で社会保険の適用関係を確認
  • 二以上事業所勤務の届出
  • 報酬合算後の標準報酬月額
  • 各法人への保険料の按分

役員報酬は税務上も、簡単には途中変更できない

社会保険料だけを見て、「今月から役員報酬を下げる」「利益が出たから途中で上げる」という設計をすることにも注意が必要です。 法人税では、役員給与について定期同額給与などの要件を満たさないものは、原則として損金に算入できない仕組みがあります。 定期同額給与の改定は、原則として事業年度開始から3か月以内など、一定のルールに従う必要があります。

つまり、役員報酬は「社会保険料を見て毎月調整するもの」ではありません。
法人税、所得税、社会保険、キャッシュフロー、将来年金をまとめて検討し、 通常は、法人税法上の役員給与の改定ルールを踏まえ、事業年度の開始後の所定の時期に年間の報酬額を決定・確認します。

実際の改定が損金算入に認められるかは、定期同額給与、臨時改定事由、業績悪化改定事由等の要件により判断が分かれるため、 途中で報酬を変更する場合は、税務・社会保険の双方を確認します。

税理士はここを見る

① 法人化による税負担の改善

まず所得税・法人税の差を確認します。ただし、これだけで結論を出しません。

② 会社負担の社会保険料

役員報酬に応じて会社が負担する社会保険料を年間コストとして計上します。

③ 本人の手取り

本人の税金・社会保険を差し引いた後に、生活に使える金額がいくらになるかを確認します。

④ 将来の年金

厚生年金の加入による将来の給付を考慮します。現在の負担だけで評価しません。

⑤ 年齢・在職老齢年金

60代以降は年金支給停止の可能性まで含めて役員報酬を設計します。

⑥ 家族・他法人との関係

配偶者・家族の収入、既存法人の役員報酬、二以上事業所勤務まで確認します。

法人化の判断式を一つに絞るなら、
「法人化による税金の改善額」-「会社+本人の追加社会保険負担」-「法人維持コスト」 を現在の手取り改善額として見ることです。 そのうえで、将来の厚生年金と相続・承継まで確認します。

法人化前に確認したいポイント

  • 現在の個人の不動産所得はいくらか
  • 法人化後、法人にいくら利益を残す予定か
  • 役員報酬はいくら必要か
  • 会社負担・本人負担の社会保険料はいくらか
  • 健康保険はどの制度・都道府県・保険者になるか
  • 現在すでに別法人から役員報酬を受け取っていないか
  • 60歳以上の場合、在職老齢年金への影響がないか
  • 70歳・75歳の到達時に何が変わるか
  • 役員報酬をいつ決定・変更するか
  • 税金+社会保険+法人維持費を合わせた年間手取りがどうなるか

よくある質問

一人会社でも社会保険に加入する必要がありますか?

原則として必要です。日本年金機構は、法人事業所について、従業員を雇っていなくても事業主を含めた加入手続きが必要となるケースを示しています。

役員報酬を低くすれば、社会保険の加入対象から外れますか?

いいえ。「報酬を低くすれば自動的に社会保険から外れる」という一律のルールではありません。 法人との使用関係、経常的な労務の提供、報酬の状況など、実態を踏まえて被保険者資格を判断します。

社会保険料は会社と本人のどちらが払うのですか?

健康保険・厚生年金等は、原則として会社と本人が負担します。 厚生年金は労使折半です。会社側には本人負担とは別の事業主負担もあります。

社会保険に入ると、将来の年金は増えますか?

厚生年金の加入期間や標準報酬月額等は、老齢厚生年金額の計算に関係します。 そのため、社会保険料の負担だけでなく将来の年金額まで含めて考える必要があります。

60歳を過ぎてから法人化すると、年金が減りますか?

役員報酬等と老齢厚生年金の基本月額の組合せによっては、在職老齢年金による支給停止が生じる場合があります。 ただし、2026年4月から支給停止の基準額は65万円に引き上げられています。個別の年金額と報酬で確認します。

すでに別の会社で社会保険に入っています。新しい不動産法人でも加入が必要ですか?

新しい法人も社会保険の適用事業所となる場合は、そこでの加入手続きが必要です。 複数の法人から役員報酬を受ける場合は、二以上事業所勤務の届出と報酬合算の確認が必要です。

役員報酬は、社会保険料を下げるために途中で変更できますか?

社会保険だけを理由に自由に毎月変更する、という考え方は適切ではありません。 法人税上の役員給与の損金算入には定期同額給与等のルールがあり、通常の改定には時期の制約があります。

当事務所の考え方

不動産法人化を考えるとき、私たちは「税金が下がるか」だけで結論を出しません。

特に50代・60代・70代の不動産オーナーでは、 現在の税金、会社負担の社会保険、本人の手取り、将来の厚生年金、在職老齢年金、家族の生活費 を一つの時間軸に並べて比較することが重要だと考えています。

法人化は一度実行すると、役員報酬、社会保険、法人維持費などが継続します。 「今年いくら得をするか」ではなく、「5年、10年後まで続けたらどうなるか」まで確認してから判断します。

制度・保険料率について: 社会保険の適用、保険料率、在職老齢年金の基準等は改定されることがあります。 本ページの金額例は2026年度の制度を前提としています。実際の手続・試算では、 日本年金機構、協会けんぽ等の最新の公的資料をご確認ください。

このページの主な根拠・参考資料

法人化は、税金と社会保険を一緒に比較する

不動産法人化では、個人と法人の税額だけでなく、 役員報酬、会社負担の社会保険、本人の手取り、将来の年金まで含めて比較することが重要です。

不動産賃貸業の法人化|5つの方法を比較

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この記事を担当した執筆者
佐々木税務会計事務所 共同代表 佐々木謙
保有資格
専門分野相続・贈与・不動産・法人経営
経歴経営コンサルティング会社で約10年間、企業経営・事業承継のコンサルティングに従事。その後、法律事務所で約5年間、相続・資産承継の実務を経験し、大手税理士法人では約10年間、相続税申告、財産評価、事業承継、生前対策などの資産税業務を専門に担当しました。 これまで培った税務・法務・経営の知見を活かし、一般のご家庭から地主・企業オーナーまで、幅広い相続・資産承継をサポートしています。 現在は佐々木税務会計事務所の共同代表として、**「創族(そうぞく)」**を理念に、相続税申告だけでなく、生前対策、遺言、家族信託、事業承継など、ご家族の将来を見据えた相続・資産承継に取り組んでいます。
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