不動産法人化と相続税|自社株評価・土地保有特定会社
法人化すると相続財産は「消える」のではなく、財産の形と評価方法が変わります。
更新日:2026年8月19日
不動産の法人化を相続対策として考えるとき、所得税・法人税の比較だけでは足りません。 土地・建物を誰が所有するのかによって、相続時に評価する財産が 土地・建物なのか、法人株式なのかが変わるからです。
1.法人化すると相続財産はどう変わる?
個人が土地・建物を所有していれば、原則としてその土地・建物が相続財産です。 一方、法人が土地・建物を所有している場合、法人の資産そのものを株主が直接相続するのではなく、 被相続人が保有する取引相場のない株式(自社株)を評価します。
↓
法人所有:法人が土地・建物を保有 → 株主が保有する法人株式を評価
2.5つの法人化方式で相続財産はどう違う?
法人化の方式そのものは親ページで詳しく比較しています。 ここでは、相続時に「何を評価するのか」という観点だけに絞ります。
| 方式 | 不動産の主な所有者 | 相続時に重要になる財産 | 相続面の主な論点 |
|---|---|---|---|
| 管理会社方式 | 個人 | 個人の土地・建物+法人株式 | 管理会社株式の評価、個人不動産の評価 |
| サブリース方式 | 個人 | 個人の土地・建物+法人株式 | 個人不動産の評価、法人との契約関係 |
| 建物だけ法人 | 土地=個人 建物=法人 | 個人土地+法人株式 | 土地使用関係、土地評価、自社株評価 |
| 土地・建物を法人へ移転 | 法人 | 法人株式+個人に残る現預金・貸付金等 | 自社株評価、土地保有特定会社、移転後の個人財産 |
| 新規取得を法人で行う | 法人 | 法人株式 | 取得時期、借入、資産構成、株式承継 |
3.自社株評価の基本と土地保有特定会社
法人が不動産を所有すると、その不動産の価値は法人株式の評価に影響します。 ただし、「法人が4億円の土地を持つ=株価4億円」ではありません。 株主区分、会社規模、評価方式、資産・負債、特定の評価会社への該当等を確認します。
土地保有特定会社はなぜ重要?
土地保有特定会社に該当するかは、会社規模や総資産価額等の区分に応じて判定します。 土地等の価額が総資産価額に占める割合については、区分に応じて 70%または90%の基準が用いられますが、 単純に土地割合だけで判定するものではありません。
特に「土地だけ法人化」は法人の総資産に占める土地割合を高めやすいため、 土地保有特定会社の判定を移転前にシミュレーションする必要があります。
4.不動産法人の「2つの3年ルール」は別物です
不動産を持つ法人の株式評価では、「3年」という言葉が二つ登場します。 混同しやすいですが、判定対象が違います。
| ルール | 何を見る? | 主な意味 |
|---|---|---|
| 開業後3年未満 | 会社の開業時期 | 特定の評価会社として原則的評価方式とは異なる取扱いを確認 |
| 課税時期前3年以内の取得・新築 | 法人が土地等・家屋等を取得・新築した時期 | 純資産価額計算上、原則として通常の取引価額相当額で評価 |
5.2026~2027年の最新改正|38%と貸付用不動産5年ルール
2026年4月|評価差額に対する法人税額等相当額は38%へ
純資産価額方式では、評価差額に対する法人税額等相当額を控除する仕組みがあります。 2026年の通達改正により、その割合は37%から38%へ改正されています。 2026年4月1日以後に相続・遺贈・贈与により取得する取引相場のない株式等について確認が必要です。
2027年から適用|貸付用不動産の「5年ルール」
令和8年度税制改正では、課税時期前5年以内に対価を伴う取引により取得・新築した一定の貸付用不動産について、 相続税評価の見直しが行われ、2027年1月1日以後の相続等から適用されることとされています。
※実際の申告・評価に当たっては、適用時点の法令、財産評価基本通達および国税庁公表資料を確認します。 日本公認会計士協会からは法人株式評価側の3年ルールの見直しを求める税制改正意見も公表されていますが、意見・要望と現行制度は区別して確認する必要があります。
6.小規模宅地等の特例・借入金まで比較する
法人化すると小規模宅地等の特例が必ず有利・不利になるわけではありません
土地を個人で保有する場合と、法人が保有する場合では、相続時の評価対象と適用を検討する特例が変わります。 特定同族会社事業用宅地等については一定の要件がありますが、 不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業等は対象となる「法人の事業」から除かれています。 不動産賃貸法人だから当然に特定同族会社事業用宅地等として80%減額できる、という理解は適切ではありません。
法人の土地4億円=株価4億円ではありません
純資産価額方式では、法人の資産だけを見るのではなく、負債等も考慮して純資産価額を計算します。 したがって、法人が4億円の土地を借入等によって取得した場合でも、 土地4億円をそのまま株価4億円と置くことはできません。
- 負債等
- 評価差額に対する法人税額等相当額(該当する場合)
↓
純資産価額を基礎に1株当たり価額を計算
ここまで、自社株評価、土地保有特定会社、3年ルール、最新改正、小規模宅地等の特例、借入金との関係を確認してきました。 では、既に個人が所有している土地そのものを法人へ移す方法は、相続・資産承継対策として有効なのでしょうか。 次の実務コラムでは、時価4億円の土地を例に、移転時の税負担だけでなく、資金調達、借入返済、法人税等、家族給与等による所得分散との両立まで含めて検討します。
7.実務コラム|時価4億円の「土地だけ法人化」は有効か?
土地だけを法人へ移すこと自体は可能です。 しかし、既に個人が所有する土地を法人へ移す設計は、 単純な節税策としては経済合理性を作りにくいケースが少なくありません。
例:時価4億円の土地を、個人から法人へ4億円で売却
↓ 法人へ売却
個人:売却代金として受け取る現預金・法人への貸付金・未収金等へ財産の形が変わる
法人:土地 4億円を取得 + 購入資金に対応する借入金・売主への債務等
この例で重要なのは、個人の相続財産から4億円の土地が単純に消えるわけではないことです。 売買代金を受け取れば現預金等になり、法人に代金を貸し付けた状態なら法人に対する貸付金等になります。 実際の手取りは取得費、譲渡費用、譲渡所得税等によって異なります。
土地は取得しても減価償却できません
土地は時の経過によって価値が減少する減価償却資産ではないため、 法人が4億円で土地を取得しても、その4億円を毎年の減価償却費として損金化することはできません。 これは建物を法人が取得する場合との大きな違いです。
| 比較 | 土地だけ法人 | 建物だけ法人 |
|---|---|---|
| 個人側の譲渡所得 | 要検討 | 要検討 |
| 法人側の取得税・登記 | 発生し得る | 発生し得る |
| 譲渡時の消費税 | 土地の譲渡は非課税 | 事業用建物等の譲渡は原則課税対象 |
| 取得価額の減価償却 | 土地は不可 | 建物は耐用年数に応じて可能 |
| 相続時の中心論点 | 自社株、売却後の個人財産、土地保有特定会社 | 個人土地、自社株、土地使用関係 |
「4億円では高いから、安く法人へ売ればよい?」
価格を自由に下げればよいわけではありません。 個人が法人へ資産を時価の2分の1未満で譲渡した場合には、 所得税法59条による時価課税の問題があります。 また、時価の2分の1以上であれば、あらゆる税務上の問題がなくなるという意味でもありません。 同族会社との取引については、取引全体の内容・条件・経済合理性等を確認し、 必要に応じて所得税法157条の適用可能性についても検討します。 株主構成によっては、法人の株式価値の増加について贈与税上の問題も検討します。
土地だけ法人化を検討する前に確認したい「入口条件」
既に個人が所有している土地を法人へ移す場合は、法人所有のメリットを考える前に、 そもそも移転と返済の経済合理性が成立するかを確認する必要があります。
- 土地の含み益が小さいか。取得価額と現在時価の差が小さい、または取得価額が現在時価を上回る土地では、含み益の大きい土地と比べて譲渡所得課税の負担は相対的に小さくなります。ただし、譲渡損が生じる取引を含め、同族会社との売買価格・条件は個別に検討します。
- 譲渡所得税・住民税を含む移転時の税金・費用を許容できるか。個人側では、土地の含み益に対する譲渡所得税・住民税が生じる可能性があります。さらに法人側では、不動産取得税、登録免許税、登記・専門家費用、融資・担保設定費用等が生じます。これらの移転時コストを合計しても、長期的な法人所有のメリットが残るかを確認します。
- 法人に土地取得資金を調達する力があるか。時価4億円の土地なら、法人側で相応の購入資金が必要です。借入を利用する場合は、融資可能額だけでなく金利・返済期間・担保・返済原資まで確認します。
- 土地の収益から、法人税等を負担し、なお十分な元本返済原資を確保できるか。借入で土地を取得する場合、土地は減価償却できず、借入元本の返済も損金になりません。そのため、土地の収益を返済原資とする場合は、基本的に法人税等を負担した後のキャッシュから元本を返済します。さらに、元本返済を優先して法人内に利益・キャッシュを残すほど、勤務実態・職務内容等に応じた家族への適正給与など、所得分散に充てられる余力も小さくなります。
借入で土地を法人化するなら「借りられるか」より「返せるか」
「法人が4億円を借りられるか」ではなく、
「法人税等を負担した後のキャッシュで4億円を返せるか」を確認します。
土地取得借入の元本返済そのものに法人税が課税されるわけではありません。 しかし、土地は減価償却できず、借入元本の返済も損金になりません。 そのため、土地の収益を返済原資とする場合、基本的には法人税等を負担した後に残るキャッシュから元本を返済します。
地代・賃料等の収入
- 固定資産税等
- 管理費その他の経費
- 支払利息
- 法人税等
↓
借入元本の返済に回せるキャッシュ
したがって、土地価格に対して収益性が低い土地では、4億円の取得借入をその土地自身の収益だけで返済する設計は成立しにくくなります。 特に、相続税評価や時価は高い一方で地代・賃料収入が低い「高額・低収益土地」では、借入による土地だけ法人化は慎重な検討が必要です。
不動産法人化では、家族が実際に法人業務へ従事している場合、職務内容・勤務実態・適正額等を前提として給与を支給し、所得を分散できることがあります。 しかし、借入で土地を取得した法人では、同じ収益から土地取得借入の元本も返済しなければなりません。
↓
法人所得・法人税等は減少し得る
↓
一方で、法人内に残る借入返済原資も減少
元本返済を優先する
↓
法人内に利益・キャッシュを残す必要がある
↓
法人税等を負担しながら返済原資を確保
つまり、土地だけ法人化では、「法人税等を抑えるために利益を家族給与等へ振り分けること」と「法人内に税引後キャッシュを残して借入元本を返済すること」が、同じ利益を取り合う関係になる場合があります。
そのため、法人税率と個人の所得税率の差だけで有利・不利を判断するのではなく、 家族への適正給与等を支払った後でも借入を返済できるか、反対に返済を優先した場合に所得分散等の法人化メリットがどこまで残るかまでシミュレーションします。
※家族への給与・役員報酬は、実際の勤務・職務内容、適正額、役員給与に関する法人税法上の要件等を満たすことが前提です。また、受給者側の所得税・住民税・社会保険料等も含め、世帯・法人全体で比較する必要があります。
入口条件をクリアした場合に、法人所有の目的を検討する
- 複数の土地を法人へ集約し、長期保有する明確な目的がある
- 土地そのものを相続人間で共有させず、法人を通じて管理・承継したい
- 法人主体で将来の開発・建築・土地活用を行う予定がある
- 税額だけでなく、経営権・議決権・資産管理を含めて株式承継を設計したい
※土地を法人所有にしても、土地の共有問題が自動的に解消するわけではありません。 土地の共有を避けても、法人株式が相続人間で分散すれば株主間の意思決定問題が生じ得るため、株主構成・議決権・承継先まで設計します。
8.相続まで考えた法人化が向くケース/慎重なケース
比較する価値が高いケース
- 複数の不動産を長期保有し、次世代へ賃貸事業を承継したい
- 今後も法人で収益不動産を取得する予定がある
- 不動産そのものの共有を避け、経営権・株式承継まで設計したい
- 所得税だけでなく、相続税・自社株まで一体でシミュレーションしたい
- 家族が実際に賃貸経営・法人運営に参加している
特に慎重な比較が必要なケース
- 既存土地の含み益が大きく、法人への移転時に多額の譲渡所得が見込まれる
- 土地価格に対する収益性が低く、税引後キャッシュでは土地取得借入の元本返済が長期化する
- 「土地を法人へ入れれば相続税が下がる」という理由だけで検討している
- 相続が近く、3年ルール等の影響が大きい
- 法人の資産が土地に大きく偏り、土地保有特定会社に該当する可能性が高い
- 株式を誰に承継するか決まっておらず、将来株式が分散する可能性がある
9.税理士はここを見る+セルフチェック
| 税理士が確認する項目 | 確認する理由 | 準備したい資料 |
|---|---|---|
| 法人化方式 | 相続時に評価する財産を確定する | 登記簿、売買・賃貸借契約 |
| 株主構成 | 株主区分・承継・議決権を確認 | 株主名簿、定款 |
| 会社規模・資産構成 | 自社株評価方式、土地保有割合を確認 | 決算書、勘定科目明細、資産明細 |
| 開業日・取得日 | 2つの3年ルールを判定 | 設立・開業資料、不動産取得資料 |
| 借入金 | 純資産価額と資金構成を確認 | 借入契約、残高証明 |
| 個人財産 | 法人化後も残る現金・貸付金等を含めて相続全体を把握 | 財産一覧、預金、貸付金明細 |
| 家族・承継先 | 株式分散・経営権問題を防ぐ | 家族関係、遺言・贈与等の計画 |
10.FAQ|不動産法人化と相続でよくある質問
必ず下がるわけではありません。個人不動産の評価から自社株評価へ変わる場合があり、株主区分、会社規模、土地保有特定会社、借入、取得時期等によって結果が変わります。
可能ですが、個人側の譲渡所得、法人側の取得・登記等の費用、土地を減価償却できない点、自社株評価、土地保有特定会社等を比較します。借入で取得する場合は、融資を受けられるかだけでなく、法人税等を負担した後のキャッシュで元本を無理なく返済できるかまで確認します。
一律には決められません。ただし既存土地だけを法人へ移す場合、土地は減価償却できないため、建物移転とは初期コスト回収の構造が異なります。土地使用関係、譲渡税、消費税、相続評価まで比較します。
負債は純資産価額計算に影響しますが、「借入をすれば必ず株価が下がる」とは限りません。借入で取得した資産の評価、評価差額、会社の評価方式等を一体で確認します。
両立できるかは土地の収益力と返済条件によります。土地は減価償却できず、借入元本も損金にならないため、元本は基本的に法人税等を負担した後のキャッシュから返済します。家族への適正給与等を増やせば法人所得は減少し得る一方、法人内に残る返済原資も減るため、所得分散と元本返済を同時にシミュレーションする必要があります。
土地等の保有割合が一定以上となる場合に該当可能性があり、原則として純資産価額方式による評価が重要になります。70%・90%の数値だけでなく会社規模等を含めて判定します。
必ずしも有利ではありません。開業後3年未満の会社に関する取扱いと、課税時期前3年以内に法人が取得・新築した土地等・家屋等の評価ルールをそれぞれ確認する必要があります。
個人等が保有する一定の貸付用不動産の5年ルールと、法人株式を純資産価額方式で評価する際の現行3年ルールは別の論点です。適用時点の法令・通達・国税庁資料を確認します。
11.当事務所の考え方|「法人に入れる」より先に、相続後の姿を決めます
不動産法人化の相続対策では、「土地を法人へ入れるか」「建物だけ法人にするか」という手段から入るのではなく、 誰に、何を、どのような形で承継したいのかを先に整理することが重要です。
土地を法人へ移しても相続財産が消えるわけではありません。 個人に残る現預金・法人への貸付金等、法人株式、法人が保有する土地・建物の評価、借入、株主構成を一体で見ます。 そのうえで、所得税・法人税・社会保険・移転コスト・相続税を時間軸で比較します。
既存不動産の評価、取得費、借入、法人の決算書、株主構成、家族構成が分かれば、 「法人化できるか」ではなく「法人化した方がよいか」「何を法人にするか」を具体的に比較できます。
不動産法人化・相続について相談する12.主な根拠・参考資料
※本ページは一般的な判断材料を整理したものです。実際の税務上の結論は、物件、取得時期、取得費、借入、法人の資産構成、株主構成、家族関係、相続時期等により異なります。税制・評価通達は改正されることがあるため、実行・申告時点の法令・通達・国税庁公表資料をご確認ください。


















