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成年後見開始後にできること・できないこと|不動産・贈与・相続税を解説

成年後見制度 実務ライブラリ
成年後見人が選任されても、
財産を自由に動かせるわけではありません。

成年後見制度は、本人の権利・生活・財産を守るための制度です。 家族の希望や将来の相続税対策を実現するための制度ではありません。

預金管理、施設契約、不動産売却、修繕、遺産分割、相続税申告はどこまでできるのか。 贈与、節税、養子縁組、家族信託はなぜ難しくなるのか。 本人利益・代理権・家庭裁判所の許可から整理します。

30秒で結論

成年後見開始後の判断基準は、「家族にとって便利か」「相続税が減るか」ではなく、 その行為が本人の生活・療養・財産を守るために必要かどうかです。

  • 預金管理、生活費・介護費の支払い、必要な契約は後見人の基本業務です。
  • 本人のために必要な不動産売却・修繕等は、条件を確認して進められる場合があります。
  • 本人の居住用不動産を処分するには、事前に家庭裁判所の許可が必要です。
  • 贈与、相続税対策、他の家族への財産移転は、原則として困難になります。
  • 後見人自身も相続人となる遺産分割では、利益相反への対応が必要です。
  • 相続手続や不動産売却が終わっても、本人が存命である限り後見が当然に終了するわけではありません。
重要: 「後見人になれば家族が親の財産を自由に管理できる」という理解は正確ではありません。 後見人は本人の財産を本人のために管理し、裁判所へ定期的に報告します。 家族名義の口座へ移す、家族へ贈与する、節税目的で資産を組み替える行為は、 家族の合意があっても当然には認められません。

THREE PRINCIPLES

成年後見開始後の判断は、3つの原則から考えます

1 本人の利益

本人の生活、療養、介護、住居、財産保全のために必要かを確認します。 将来の相続人の利益とは分けて考えます。

2 後見人等の権限

成年後見人、保佐人、補助人では権限が異なります。 保佐人・補助人は、行為ごとの代理権目録を確認します。

3 許可・利益相反・報告

居住用不動産の処分、後見人自身との取引、報酬の受領等は、 家庭裁判所の許可・審判や特別な手続を要する場合があります。

家庭裁判所が日常のすべての支出を一件ずつ許可する制度ではありません。 後見人は付与された権限と本人利益に基づいて事務を行い、財産目録や収支資料を整え、 定期報告等により裁判所の監督を受けます。

AT A GLANCE

成年後見開始後にできること・できないこと一覧

「できる」「できない」は絶対的ではありません。 本人利益、権限、契約内容、財産状況、家庭裁判所の許可等により結論が変わるため、 下表は一般的な実務上の目安です。

行為 一般的な扱い 主な条件・注意点
預金の管理・生活費の支払い できる 本人名義で管理し、使途・領収書・収支を記録する。
施設入所・介護・医療に関する契約 できる 法律行為としての契約・支払いを行う。医療行為そのものへの同意権とは区別する。
年金・賃料等の受領 できる 本人名義口座等で管理し、他人の財産と混同しない。
税務申告・納税 できる 本人の法定代理人として、必要に応じ税理士へ委任する。
通常の修繕・維持管理 できる 本人財産の維持・安全確保に必要で、費用が合理的であること。
本人の非居住用不動産の売却 条件付き 本人利益、価格、必要性を確認。後見人の裁量だけで常に自由に売れるわけではない。
本人の居住用不動産の売却・賃貸借解除・取壊し等 裁判所許可 事前の家庭裁判所許可が必要。無許可の処分は無効となる。
大規模修繕・建替え・借入れ 慎重判断 本人の年齢、資金、回収可能性、居住・収益上の必要性を検討。投資・節税目的だけでは難しい。
遺産分割 できる 本人利益を確保。後見人自身も相続人なら利益相反対応が必要。
相続放棄・限定承認 条件付き 本人利益、3か月期限、利益相反を確認。限定承認は共同相続人全員で行う。
本人のための訴訟・返還請求 できる 本人の権利回復・財産保全のために必要な場合。弁護士への委任を検討。
親族への生前贈与 原則困難 本人財産を減少させ、本人利益と整合しにくい。過去の贈与慣行があっても当然には継続できない。
相続税対策目的の資産移転 原則困難 将来の相続人の税負担軽減は、通常、本人自身の利益とは別である。
新たな家族信託契約 通常困難 本人による契約意思が必要。成年後見人が本人に代わり自由に信託契約を設計するものではない。
本人に代わる遺言作成 できない 遺言は本人自身が行う身分上・一身専属的な行為。後見人が代理作成することはできない。
本人に代わる養子縁組 できない 身分行為であり後見人が代理して成立させることはできない。本人自身の意思能力が問題となる。
家族・後見人への利益供与 原則不可 利益相反、横領、善管注意義務違反等の問題となり得る。
「家庭裁判所が許可すれば何でもできる」という制度ではありません。
家庭裁判所の許可制度が法令上用意されている行為と、 そもそも後見人が本人に代わって行えない身分行為・相続対策を区別する必要があります。

MONEY AND DAILY LIFE

預金管理・生活費・施設費は、本人のために支出します

できること

本人の生活を維持する財産管理

  • 本人名義口座の管理
  • 生活費・介護費・医療費・税金の支払い
  • 年金、賃料、保険金等の受領
  • 不要な契約の解約
  • 本人に対する債権の回収
  • 収支・領収書・財産目録の作成
できない・避けるべきこと

本人財産と家族財産を混同する行為

  • 家族名義口座へまとめて移す
  • 使途を残さず現金で引き出す
  • 家族の生活費・事業費へ流用する
  • 家族への貸付けを安易に行う
  • 本人名義のカードを家族のために使う
  • 裁判所への報告を前提にしない管理
医療同意と契約代理は区別します。
後見人は病院・施設との契約や費用支払いを行いますが、 手術・治療等への医療同意権が当然に包括的に付与される、という単純な制度ではありません。

REAL ESTATE

不動産は売却できますが、「本人に必要か」を説明できなければなりません

成年後見人が選任されたから不動産を売れないわけではありません。 しかし、家族の相続対策・資金需要・管理都合だけではなく、 本人の生活・介護・財産保全のために必要であることが重要です。

売却が検討される例

本人の生活・介護費を確保する

施設費、医療費、生活費が不足し、遊休不動産を合理的な価格で換価する場合です。

維持管理

危険・老朽化を防ぐ修繕

雨漏り、構造上の危険、賃貸物件の法定修繕等、 財産価値と安全を維持するための支出は検討できます。

慎重な例

建替え・多額借入れ・新規投資

回収まで長期間を要する建替えや、節税目的の新規借入れ・アパート建築は、 本人利益との関係を慎重に検討します。

居住用不動産の処分には、事前の家庭裁判所許可が必要です

居住用不動産に含まれ得るもの

現在住んでいない自宅も対象となる場合があります

  • 本人が現在居住している自宅
  • 施設入所前に住んでいた自宅
  • 退院・退所後に戻る可能性がある自宅
  • 本人の生活拠点として利用していた建物・敷地
処分に含まれる主な行為

売却だけではありません

  • 売却
  • 抵当権の設定
  • 賃貸借契約の締結・解除
  • 建物の取壊し
  • 使用貸借等の住居利用に影響する処分
家庭裁判所の許可を得ずに成年被後見人の居住用不動産を処分した場合、 その処分は無効となります。 売買契約締結・決済・取壊し等を進める前に、許可対象かを確認します。
売却等の必要性確認
査定・条件整理
本人の住居確保
家庭裁判所へ申立て
許可後に契約・決済
代金を本人財産として管理

GIFT AND TAX PLANNING

生前贈与・相続税対策は、成年後見開始後に原則として難しくなります

難しくなる理由

本人財産を減らし、将来の相続人が利益を得るため

贈与や相続税対策は、本人の財産を無償で減少させたり、 将来の相続人の税負担を軽減したりする行為です。 通常は本人の生活・療養・財産保全のための行為とは評価しにくくなります。

例外を安易に広げない

過去からの慣行があっても当然に継続できない

毎年同額を贈与していた、家族へ祝い金を渡していた、扶養していた等の事情があっても、 本人の資産・生活・意思・社会通念上の相当性を個別に確認します。

対策 成年後見開始後の一般的な扱い 理由
110万円以下の暦年贈与 原則困難 贈与税がゼロでも、本人財産を無償で減らす点は変わらない。
相続時精算課税による贈与 原則困難 本人財産を将来の相続人へ移す相続対策であり、本人利益との整合が必要。
不動産の法人化・資産組替え 極めて慎重 売買価格、税負担、借入れ、経営リスク、利益相反を検討する。
アパート建築・建替え 極めて慎重 節税だけでなく、本人の収益・回収期間・資金需要・年齢を確認する。
生命保険への新規加入 個別判断 本人の保障・資産保全か、相続人への移転目的かを確認する。
養子縁組 代理不可 後見人が本人に代わって行う身分行為ではない。
家庭裁判所へ相談すれば節税対策を許可してもらえる、という建て付けではありません。
本人利益と整合しない行為について、単に家族全員が賛成している、税金が減るという理由だけで 後見人の権限が広がるわけではありません。

INHERITANCE

遺産分割・相続放棄・相続税申告はできますが、利益相反に注意します

遺産分割

本人を代理して協議へ参加

成年後見人は本人の法定代理人として遺産分割へ参加できます。 本人の生活、取得財産の管理可能性、換価性等を踏まえます。

利益相反

後見人自身も相続人なら別の代理人

後見人と本人が共同相続人となる場合、 後見監督人または家庭裁判所が選任する特別代理人等による対応を確認します。

相続放棄

3か月期限と本人利益を確認

債務超過等で本人に利益があるかを判断します。 後見人自身の利害と対立する場合は利益相反対応が必要です。

本人の法定相続分を確保すれば必ず適切、法定相続分を下回れば常に不適切、という単純な判断ではありません。
財産の種類、債務、特別受益、寄与分、本人の生活資金、共有管理の負担等を踏まえ、 本人にとって合理的な分割かを検討します。

TAX PROCEDURES

成年後見人は、本人の税務申告・納税を行えます

できる税務手続

本人の法定代理人として申告・納税

  • 所得税・消費税等の申告
  • 相続税・贈与税に関する申告
  • 修正申告・更正の請求
  • 税務署への資料提出・照会対応
  • 本人財産からの納税
  • 税理士への税務代理の委任
税務上の注意

税務申告はできても、節税行為は別です

  • 既に生じた申告義務を履行することは本人利益
  • 加算税・延滞税を防ぐ期限管理が必要
  • 本人に有利な特例・控除を適切に検討
  • 将来の相続人のための贈与・資産移転とは区別
  • 他の相続人との利益相反を確認
税理士が成年被後見人の申告を代理する場合は、 成年後見人等との適法な委任関係と税務代理権限証書を整えます。 保佐・補助の場合は、税務手続や委任について付与された代理権の範囲を確認します。

COST AND DURATION

後見人報酬・裁判所報告・終了時期を事前に理解します

報酬

本人財産から受け取るには審判が必要

後見人等が本人財産から報酬を受け取るには、 家庭裁判所へ報酬付与を申し立て、認められた金額を受領します。

報告

初回報告・定期報告が続く

財産目録、収支状況、預金通帳、領収書等を整え、 裁判所が定める期間ごとに報告します。

終了

目的の手続が終わっても当然には終了しない

不動産売却、遺産分割、相続税申告等が終了しても、 本人が存命で後見開始原因が続く限り、成年後見は当然に終了する制度ではありません。

後見人は自由に辞任できません。
正当な事由があり、家庭裁判所の許可を得た場合に辞任できます。 家族が想定した手続が終わった、報告が負担である、というだけで当然に終了・辞任できるわけではありません。

PRACTICAL CASES

実例ベースで考える成年後見開始後の問題

以下は実務で生じやすい事実関係を再構成した一般例です。 個別案件の結論は、本人の生活・財産・権限・管轄裁判所等により異なります。

1

施設費のため自宅を売りたい

問題
本人は施設へ入所し、自宅は空き家。売却代金がなければ施設費が不足する。
整理
自宅は居住用不動産に該当する可能性が高く、査定、売却必要性、今後の住居を整理して許可申立て。
教訓
買主・決済期限を先に確定せず、許可手続の時間を見込む。
2

毎年の110万円贈与を続けたい

問題
認知症前から子や孫へ毎年贈与していたため、家族は後見開始後も継続を希望。
整理
非課税枠の範囲内かではなく、本人財産を無償で減らす合理性・本人利益を確認。
教訓
贈与税がかからないことと、後見人が贈与できることは別問題。
3

老朽アパートを建て替えたい

問題
相続税対策と収益改善のため、多額の借入れで建替えを計画。
整理
本人の年齢、資金需要、回収期間、空室・金利リスク、既存建物の安全性を比較。
教訓
節税効果だけでは本人利益を説明できない。
4

父の相続で、母の後見人である長男も相続人

問題
長男が母を代理して、自分自身と遺産分割をしようとした。
整理
利益相反を確認し、監督人または特別代理人等による代理を検討。
教訓
親族後見人だから遺産分割が簡単になるとは限らない。
5

相続税対策のため本人所有地を法人へ売却したい

問題
家族法人へ土地を移し、将来の相続財産を減らしたい。
整理
売買価格、譲渡所得、法人利益、本人の現金保有、利益相反、取引必要性を検討。
教訓
適正価格の売買でも、本人にとって行う必要があるかは別に判断する。
6

相続手続だけのため後見を申し立てた

問題
遺産分割終了後、家族は後見も終了すると思っていた。
整理
本人が存命で保護の必要が続くため、財産管理・定期報告・報酬等が継続。
教訓
申立て前に開始後の継続期間と負担を説明する。

FAQ

成年後見開始後のよくある質問

成年後見人は本人の不動産を売却できますか。
本人の生活費・介護費の確保、管理困難な不動産の整理等、本人のために必要であれば売却できる場合があります。 本人の居住用不動産を処分する場合は、事前に家庭裁判所の許可が必要です。
施設へ入所した後の自宅も居住用不動産ですか。
現在住んでいなくても、施設入所前に居住していた、将来戻る可能性がある等の場合は、 居住用不動産に含まれることがあります。売却・賃貸借解除・取壊し等の前に確認します。
成年後見人は110万円以下の生前贈与を続けられますか。
110万円以下で贈与税がかからないことと、後見人が贈与できることは別です。 贈与は本人財産を無償で減らすため、成年後見開始後は原則として困難です。
成年後見人は相続税対策をできますか。
成年後見制度は本人の権利・生活・財産を守る制度です。 将来の相続人の相続税を減らすことだけを目的とした贈与、借入れ、建築、資産移転等は原則として難しくなります。
成年後見人は相続税申告をできますか。
本人が相続人・受遺者等となった場合、成年後見人は法定代理人として相続税申告・納税を行えます。 必要に応じ、成年後見人から税理士へ税務代理を委任します。
成年後見人自身も相続人の場合、遺産分割できますか。
本人と成年後見人が同じ相続の共同相続人となる場合は利益相反となります。 後見監督人がいる場合や、家庭裁判所が特別代理人を選任する場合など、別の代理体制を整えます。
家族が成年後見人になれば報酬は不要ですか。
親族後見人が報酬を求めないことはありますが、後見人が本人財産から報酬を受け取る場合は、 家庭裁判所の報酬付与の審判が必要です。専門職後見人等が選任された場合は報酬が継続する可能性があります。
相続や不動産売却が終われば成年後見を終了できますか。
本人が存命で後見開始原因が続く限り、特定の手続が終わっただけで成年後見が当然に終了するわけではありません。
成年後見人は辞められますか。
正当な事由がある場合に、家庭裁判所の許可を得て辞任できます。 後任の選任が必要となることがあり、自由に辞任できる制度ではありません。
家庭裁判所へ相談すれば、できない行為も許可されますか。
家庭裁判所の許可制度が法令上設けられている行為と、 そもそも後見人が代理できない身分行為や本人利益に反する行為は異なります。 家庭裁判所が個別に何でも許可する制度ではありません。

PRIMARY SOURCES

確認の基礎とする公的資料

本ページは制度全体を理解するための一般的な情報です。 個別案件では、後見・保佐・補助の別、代理権目録、本人の生活・財産、 管轄家庭裁判所の運用、契約・税務・登記の内容を確認します。

申立て前に、「開始後に何が変わるか」まで確認します

成年後見制度が必要な場面はあります。
しかし、申立て後に贈与・不動産・相続税対策が難しくなること、 後見が長期間続くことまで理解した上で選択することが重要です。

 
この記事を担当した執筆者
佐々木税務会計事務所 共同代表 佐々木謙
保有資格
専門分野相続・贈与・不動産・法人経営
経歴経営コンサルティング会社において約10年間、企業経営や事業承継に関するコンサルティング業務に従事。その後、法律事務所にて約5年間、相続・資産承継に関する実務を経験し、大手税理士法人では約10年間にわたり、相続税申告、財産評価、事業承継、生前対策など資産税業務を専門に担当しました。 これまで培ってきた税務・法務・経営コンサルティングの知見を活かし、一般のご家庭から地主・企業オーナーまで、幅広いお客様の相続・資産承継をサポートしています。 現在は佐々木税務会計事務所の共同代表として、「創族(そうぞく)」を理念に掲げ、相続税申告にとどまらず、生前対策、遺言書作成、家族信託、事業承継など、ご家族の未来を見据えた総合的な相続サポートに取り組んでいます。 相続は税金だけの問題ではなく、ご家族の人生に関わる大切な節目です。税務・法務・経営、それぞれの視点から最適な解決策をご提案し、お客様が安心して未来へ歩んでいただけるよう、分かりやすく実践的な情報発信にも力を入れています。
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