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親が認知症でも家は売れる?家族信託・任意後見・成年後見を比較

認知症と不動産売却 実務ライブラリ
親が認知症でも、
家は売れるのでしょうか。

結論は、親の現在の判断能力と、認知症になる前に準備した制度によって変わります。

本人が売買内容を理解できる場合、家族信託がある場合、任意後見が発効している場合、 成年後見人が選任されている場合では、売却方法・家庭裁判所の関与・売却代金の管理が異なります。

30秒で結論

認知症の診断を受けただけで、直ちに家を売れなくなるわけではありません。 ただし、売買契約の内容と結果を理解できない状態では、本人自身による売却は困難です。

  • 本人に売買契約を理解する意思能力があれば、本人が売却できる可能性があります。
  • 家族信託で自宅を信託し、受託者に売却権限があれば、受託者が売却できる可能性があります。
  • 任意後見は、任意後見監督人選任後に発効し、代理権目録に売却権限が必要です。
  • 成年後見では売却できますが、本人の居住用不動産は家庭裁判所の事前許可が必要です。
  • 何も準備せず意思能力を失った場合、家族だけで代わりに売却することはできません。
  • 売却できるかだけでなく、売却代金の管理、施設費、譲渡所得税まで同時に確認します。
注意: 子どもが親の実印・印鑑証明書・権利証を持っていても、それだけで親名義の家を売却できるわけではありません。 本人の有効な意思表示又は適法な代理権が必要です。

YOUR CURRENT SITUATION

まず、親の現在の状況を確認してください

同じ「認知症」でも、契約内容を理解できるか、事前準備があるかによって手続は大きく異なります。

1

売買内容を理解できる

本人が価格、相手方、売却後の生活、代金の使途を理解できる場合は、本人による売却を検討します。

本人売却を検討
2

家族信託を準備済み

自宅が信託財産に含まれ、契約に売却権限があれば、受託者による売却を検討します。

受託者売却を検討
3

任意後見契約がある

監督人選任により契約が発効しているか、代理権目録に不動産処分権限があるかを確認します。

条件を確認
4

意思能力がなく準備もない

家族だけでは売却できません。成年後見等の申立てと、居住用不動産処分許可を検討します。

成年後見等を検討
診断名だけで決めません。
意思能力は、売却しようとする時点で、その具体的な売買契約を理解できるかという観点から判断します。 日常会話ができることと、高額な不動産売買を理解できることは同じではありません。

MENTAL CAPACITY

なぜ認知症が進むと、本人名義の家を売れなくなるのか

売買契約

契約の意味と結果を理解する必要

売却価格、手付金、引渡し、違約金、所有権移転、売却後の住居などを理解して意思表示する必要があります。

登記・決済

司法書士が本人・意思を確認

所有権移転登記では、登記原因、本人確認、売却意思、代理権、必要書類が確認されます。

家族の代行

家族というだけでは代理できない

親子関係や介護実績だけでは代理権は生じません。委任状も、本人が内容を理解して作成できることが前提です。

認知症の診断、要介護認定、長谷川式等の点数だけで機械的に決まるものではありません。 契約の難易度、本人の説明内容、医療記録、面談状況、売却目的等を総合的に確認します。

INFOGRAPHIC

親の家を実際に売るには、6つの確認をそろえます

法律上の売却方法があるだけでは、取引は完了しません。 親の意思又は適法な権限を中心に、不動産会社・買主・金融機関・司法書士・税理士・家庭裁判所が、 それぞれの立場から確認できる状態を整える必要があります。

親の家を売却するときに、不動産会社、買主、買主の金融機関、司法書士、税理士、家庭裁判所が確認する事項を示した図
親の家を売却する際に、各関係者が確認する事項と、確認できない場合に取引が止まり得る段階を整理した図です。
中心は、親の意思又は適法な権限

本人売却、家族信託、任意後見、成年後見のどの方法で進めるかを最初に確定します。

関係者ごとに確認する内容が違います

契約、登記、融資、税務、本人利益の確認がそれぞれ必要です。

一つ未確認でも取引が止まることがあります

売却相談、契約、決済・登記、売却後の各段階で問題が表面化します。

不動産会社・買主が確認すること
  • 親本人に売却意思があるか
  • 誰が媒介契約・売買契約を締結するのか
  • 売主本人又は代理人に権限があるか
  • 決済・登記後に契約の有効性を争われる可能性がないか
金融機関・司法書士が確認すること
  • 所有権移転登記と抵当権設定を確実に行えるか
  • 本人確認、売却意思、意思能力に問題がないか
  • 受託者、任意後見人、成年後見人等に必要な権限があるか
  • 信託目録、後見登記、家庭裁判所許可等の必要書類がそろっているか
税理士・家庭裁判所が確認すること
  • 取得費、譲渡費用、3,000万円特別控除等の期限
  • 共有者ごとの譲渡所得と売却後の資金計画
  • 売却が本人の利益となるか
  • 売却の必要性、価格、住居、売却代金の管理方法
この図の結論:
親の家は、認知症という診断名だけで売れなくなるのではありません。 本人の意思又は適法な権限を中心に、契約・登記・融資・税務・本人利益を確認できる状態が整っていないため、 実務上の売却が止まることがあります。

SYSTEM COMPARISON

家族信託・任意後見・成年後見で、売却方法はどう違うか

状況・制度売却主な条件裁判所売却代金
本人に意思能力がある 可能 本人が売買内容を理解し、自ら契約する 原則不要 本人の財産
財産管理等委任契約 条件付き 本人の意思能力と具体的代理権が必要 原則不要 本人の財産
家族信託 可能性あり 自宅が信託財産、受託者に売却権限、信託目的に合致 原則不要 信託財産として管理
任意後見 条件付き 監督人選任後、代理権目録に売却権限、本人利益 監督人を通じ関与 本人の財産として管理
成年後見 許可後可能 本人利益、価格、住居、必要性。居住用不動産は事前許可 事前許可が必要 本人の財産として管理
準備なし・意思能力なし 家族だけでは不可 成年後見等の法的代理体制を整える 申立てが必要 本人の財産
「家族信託なら必ず売れる」「任意後見なら裁判所の許可は一切不要」「成年後見ならすぐ売れる」 と一律に説明することはできません。不動産、契約、本人の生活、代理権、利益相反、登記を個別に確認します。

FAMILY TRUST

家族信託がある場合、受託者は自宅を売却できるか

1

自宅が信託財産に入っているか

信託していない本人名義の自宅には、受託者の権限は及びません。信託契約と信託登記を確認します。

2

売却・処分権限があるか

管理だけでなく、売買契約、代金受領、登記、抵当権抹消等の権限を具体的に確認します。

3

信託目的に沿うか

施設費の確保、空き家管理、本人の生活安定等、信託目的と受益者利益にかなう売却かを確認します。

4

利益相反がないか

受託者本人、受託者の会社、近親者への売却は、価格・承認・契約条項等を慎重に確認します。

売却代金は受託者個人のお金にはなりません。
受託者は、売却代金を信託財産として分別管理し、契約で定めた本人の生活費・施設費等へ使用します。

VOLUNTARY GUARDIANSHIP

任意後見契約がある場合、確認すべき3つの条件

1 契約が発効しているか

公正証書を作っただけでは足りません。家庭裁判所が任意後見監督人を選任した後に発効します。

2 代理権目録に売却があるか

不動産の管理だけでなく、処分・売却、登記、代金受領等の権限を確認します。

3 本人のための売却か

施設費、生活費、空き家負担等の必要性、本人の希望、価格、転居先を整理します。

任意後見では、法定後見の居住用不動産処分許可と同一の許可制度がそのまま適用されるわけではありません。 ただし、本人の生活基盤に関わる重大な処分であるため、任意後見監督人への事前相談・報告を含め慎重に進めます。

ADULT GUARDIANSHIP AND COURT

成年後見で自宅を売るには、家庭裁判所の事前許可が必要です

現在住んでいる自宅だけでなく、施設入所前に住んでいた家や、将来戻る可能性がある家も 「居住用不動産」に含まれる場合があります。

裁判所が見ること

なぜ売る必要があるのか

施設費、医療費、維持費、空き家リスク、本人の収支、他の資産等から必要性を説明します。

価格・条件

安すぎる売却でないか

査定書、売買契約書案、固定資産評価、登記事項、買主との関係等を確認します。

本人の生活

売却後の住居は確保されるか

施設入所の継続性、退所可能性、本人の希望、家族の支援、売却後資金の管理を整理します。

家庭裁判所の許可を得ずに成年被後見人等の居住用不動産を処分した場合、その処分は無効です。 売買契約締結前に、管轄家庭裁判所の手続・必要資料を確認します。

標準的に準備する資料

  • 居住用不動産処分許可申立書
  • 不動産の登記事項証明書
  • 固定資産評価証明書等
  • 不動産会社の査定書
  • 売買契約書案
  • 売却の必要性を示す収支資料
  • 施設入所・住居に関する資料
  • 売却代金の使途・管理計画
  • 親族・買主との関係資料
  • 裁判所から追加を求められた資料

SALE PROCESS

認知症の親の家を売却する実務の流れ

1 現状確認意思能力・登記・共有・抵当権
2 制度確認信託・後見・代理権・許可
3 査定複数査定・売却理由・費用
4 契約売主・代理人・受託者を明確化
5 決済・登記代金・抹消・所有権移転
6 税務・管理確定申告・施設費・残金管理
不動産会社

媒介・査定・買主対応

売主の権限、売却理由、物件状況、契約条件、残置物、引渡し時期を整理します。

司法書士

本人確認・代理権・登記

登記名義、意思確認、信託目録、後見登記、裁判所許可、抵当権抹消を確認します。

税理士

譲渡所得・特例・相続への接続

取得費、譲渡費用、居住用特例、申告、売却後の資金と将来相続税を整理します。

AFTER THE SALE

売却代金は、家族が自由に使えるお金ではありません

施設費・医療費

本人の生活・療養に必要な費用へ使用します。

税金・諸費用

譲渡所得税、住民税、仲介手数料、登記費用等を見込みます。

生活予備費

将来の介護、退去、転院、長寿リスクに備えます。

残金の管理

信託財産又は本人財産として分別し、収支を記録します。

相続税対策のため子や孫へ贈与する、家族の住宅購入へ充てる、家族会社へ貸し付ける等は、 本人利益、信託契約、後見人の権限、利益相反、贈与税を別途確認する必要があります。

TAX

自宅売却では、制度だけでなく譲渡所得税の期限も確認します

3,000万円特別控除

住まなくなった後にも期限があります

以前住んでいた自宅は、原則として住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の 12月31日までに売却することが重要です。

取得費

古い契約書・建築資料を早めに探す

購入契約書、建築請負契約、増改築資料、仲介手数料、登記費用等を確認します。資料不足は税額へ大きく影響します。

共有名義

共有者ごとに申告・特例を判定

売却代金と譲渡所得は持分で配分し、3,000万円特別控除の適用可否も共有者ごとに確認します。

取壊し

解体後の敷地売却には追加要件

取壊しから売買契約までの期限、敷地の貸付け等の有無、居住しなくなった日からの期限を確認します。

施設入所後は「いつ売るか」が重要です。
法的な売却体制を整えている間に、居住用財産の特例期限を過ぎることがあります。 後見申立て、裁判所許可、査定、売却活動と税務期限を同じ工程表で管理します。

FAILURE AND PREVENTION

よくある失敗と、どうすれば防げたか

認知症後に家族信託を作ろうとした

既に契約内容を理解できず、新たな信託契約を締結できませんでした。

防止策:判断能力があるうちに、自宅売却の可能性まで含めて契約します。

遺言があるから売れると思っていた

遺言は死亡後の承継を定めるもので、生前の売却代理権にはなりません。

防止策:生前の財産管理制度と死亡後の承継制度を分けます。

後見申立て中に買主が離れた

売却権限・裁判所許可の見通しが立たず、契約時期が合いませんでした。

防止策:売却活動前に申立て・許可・必要資料の工程を確認します。

3,000万円控除の期限を過ぎた

施設入所後に売却判断が遅れ、税務上の期限を十分に確認していませんでした。

防止策:住まなくなった日と売却期限を最初に確認します。

売却代金を家族口座へ入れた

本人財産・信託財産と家族のお金が混在し、使途と贈与の問題が生じました。

防止策:受取口座、分別管理、施設費支払い、収支報告を事前に決めます。

共有者の一人が協力しなかった

親の持分だけでは家全体を売却できず、他の共有者との調整が止まりました。

防止策:登記名義・持分・共有者の意思を早期に確認します。

DOCUMENT CHECK

相談前に確認しておくとよい資料

不動産
  • 登記事項証明書
  • 固定資産税課税明細
  • 権利証・登記識別情報
  • 購入契約書・建築資料
  • 住宅ローン・抵当権資料
本人・制度
  • 診断書・介護認定資料
  • 家族信託契約書・信託目録
  • 任意後見公正証書・代理権目録
  • 後見登記事項証明書
  • 施設契約・月額費用資料
税務・資金
  • 取得費資料
  • 増改築・解体費用資料
  • 売却査定書
  • 本人の預金・収支
  • 売却後の資金計画

FAQ

親の認知症と自宅売却のよくある質問

認知症と診断されたら、必ず家を売れなくなりますか。
診断名だけで一律に決まりません。売却時点で、本人が売買契約の内容と結果を理解して意思表示できるかを個別に確認します。
子どもが委任状を作れば売却できますか。
委任状は、本人が委任内容を理解して有効に作成できることが前提です。本人の意思能力がない状態で家族が作成することはできません。
家族信託があれば、必ず自宅を売れますか。
自宅が信託財産に含まれ、受託者に売却権限があり、売却が信託目的に沿うこと等を確認します。信託していない自宅には権限が及びません。
任意後見契約を作っていれば、すぐ売れますか。
公正証書を作っただけでは任意後見は発効しません。任意後見監督人が選任され、代理権目録に不動産売却権限があることが必要です。
成年後見人が選ばれれば、自宅を自由に売れますか。
自由には売れません。本人の居住用不動産を処分するには家庭裁判所の事前許可が必要で、必要性、価格、住居、代金管理等が審査されます。
老人ホームへ入った後の自宅も居住用不動産ですか。
施設入所前に住んでいた自宅や将来戻る可能性のある自宅も、成年後見制度上の居住用不動産に含まれる場合があります。
売却代金を子どもの口座へ振り込めますか。
原則として本人財産又は信託財産として管理します。家族口座への混在は、財産管理・贈与・使途不明金の問題を生じさせます。
施設入所後でも3,000万円特別控除を使えますか。
以前住んでいた家は、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までの売却等、一定の要件を確認します。
共有名義の家は、親の持分だけで売れますか。
親の持分のみを売却することは法的には検討できますが、家全体を売るには他の共有者の協力が必要です。税務も共有者ごとに判定します。
売却と成年後見申立ては、どちらを先に進めますか。
本人の意思能力、買主、施設費、税務期限等によります。意思能力がない場合は、適法な代理体制と裁判所許可の見通しを立ててから売却を進めます。

OUR PRACTICAL VIEW

当事務所は、「売れるか」だけでなく売却後まで設計します

法務・制度

意思能力、家族信託、任意後見、成年後見、家庭裁判所許可を整理します。

不動産実務

査定、共有、抵当権、売買条件、決済、登記、残置物等を確認します。

税務・生活

譲渡所得、居住用特例、施設費、売却後資金、将来相続までつなぎます。

当事務所の考え方:
家族信託を勧めることが目的ではありません。 本人が売却できるなら本人売却、任意後見で足りるなら任意後見、 成年後見が必要なら裁判所手続というように、現在の状況から必要な方法を選びます。

親の家を売れるか、現在の判断能力と準備状況から整理します

売却方法だけでなく、家庭裁判所、登記、施設費、譲渡所得、売却後の財産管理まで確認します。

 
この記事を担当した執筆者
佐々木税務会計事務所 共同代表 佐々木謙
保有資格
専門分野相続・贈与・不動産・法人経営
経歴経営コンサルティング会社において約10年間、企業経営や事業承継に関するコンサルティング業務に従事。その後、法律事務所にて約5年間、相続・資産承継に関する実務を経験し、大手税理士法人では約10年間にわたり、相続税申告、財産評価、事業承継、生前対策など資産税業務を専門に担当しました。 これまで培ってきた税務・法務・経営コンサルティングの知見を活かし、一般のご家庭から地主・企業オーナーまで、幅広いお客様の相続・資産承継をサポートしています。 現在は佐々木税務会計事務所の共同代表として、「創族(そうぞく)」を理念に掲げ、相続税申告にとどまらず、生前対策、遺言書作成、家族信託、事業承継など、ご家族の未来を見据えた総合的な相続サポートに取り組んでいます。 相続は税金だけの問題ではなく、ご家族の人生に関わる大切な節目です。税務・法務・経営、それぞれの視点から最適な解決策をご提案し、お客様が安心して未来へ歩んでいただけるよう、分かりやすく実践的な情報発信にも力を入れています。
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