名義預金とは?家族名義の預金は誰の相続財産になるのか|裁決事例から税理士が解説
妻・子・孫名義の預金だから、その人の財産――とは限りません。
一方で、亡くなった方がお金を出したことや、通帳を管理していたことだけを理由に、すべて被相続人の財産と決めることも適切ではありません。
家族名義の預金が誰の相続財産になるかは、口座名義だけでは判断できません。原資、管理・運用、贈与の成立、使用・処分などの具体的な事実関係から、相続開始時点で誰に帰属していた財産なのかを検討します。特に「生前贈与した」と考える場合は、まず民法上、贈与が成立していたかを確認することが出発点です。
名義預金とは?|問題は「名義」ではなく実際の財産帰属
一般に「名義預金」とは、配偶者・子・孫などの名義で預けられているものの、実質的には別の人に帰属すると判断される預金を指す実務上の呼び方です。
相続税では、被相続人が相続開始時に所有していた財産を適切に把握する必要があります。そのため、銀行口座の名義が家族になっていても、実質的に被相続人に帰属する財産であれば、相続財産として検討する必要があります。
大前提|民法上、贈与はいつ成立するのか
名義預金を考える前提として、まず民法上の「贈与」を確認する必要があります。「子のために貯めた」「孫にあげたつもりだった」という贈与者側の意思だけで、当然に贈与が成立するわけではありません。
「この財産を無償で与える」
「受け取る」
つまり、贈与は一方的な行為ではなく、当事者双方の合意によって成立する契約です。未成年者の場合には、法定代理人による受諾が問題になることがあります。令和3年9月17日裁決でも、この点が重要な争点となっています。
「贈与契約が成立したこと」と「実際に履行されたこと」は分けて考える
預金の名義預金問題では、贈与契約の成立だけでなく、その後、どのように資金が移転され、誰が管理し、誰が使用・処分できる状態になったのかも確認する必要があります。
国税庁も、贈与について贈与者と受贈者の双方の意思表示が必要であることを前提に、贈与による財産の取得時期について、書面による贈与と書面によらない贈与とを区分して取り扱っています。
誰の預金かを考える4つの視点
家族名義預金について一般の方が整理しやすいよう、当事務所では「原資」「管理・運用」「贈与の成立」「使用・処分」の4つに分けて確認します。
妻・子・孫名義|同じ家族名義預金でも確認事項は異なる
妻名義の預金|「専業主婦だから夫の財産」とは限らない
夫の給与や年金が妻名義口座へ移されているケースでは、資金の原資だけでなく、妻自身の給与・年金・婚姻前財産・相続財産等、夫婦の家計管理、妻が預金を自由に使用していたか、贈与があったかなどを確認します。
特に長期間の婚姻生活では、夫婦の資金が複数口座で混在していることがあります。単純な収入比率だけで財産帰属を決められない場合もあります。
子名義の預金|毎年振り込んだだけで贈与成立とは限らない
父母が子名義口座へ毎年一定額を入金していても、子が口座の存在を知らず、贈与を受けた認識がなく、被相続人が通帳等を管理し続けていた場合などは、贈与がいつ成立したのかを慎重に確認する必要があります。
孫名義の預金|口座を誰が開設・管理したかも確認
祖父母が孫名義の定期預金等を作成している場合、原資、口座開設者、届出住所・印鑑、孫や親権者の認識、通帳等の管理、利息や満期金の取扱いなどを確認します。
贈与契約書・贈与税申告があれば名義預金ではない?
贈与契約書、贈与証、贈与税申告書は、贈与の事実を検討する上で重要な資料になり得ます。しかし、それらが存在することだけで、当然に名義人へ財産が帰属すると決まるわけではありません。
| 資料・事情 | 意味 | それだけで結論が決まる? |
|---|---|---|
| 贈与契約書・贈与証 | 贈与の意思表示・受諾等を示す重要資料 | いいえ。実際の資金移動や管理状況等も確認します。 |
| 贈与税申告書 | 贈与を前提に税務申告したことを示す資料 | いいえ。財産帰属は具体的事実から検討します。 |
| 子・孫名義への振込 | 資金移動の事実 | いいえ。受贈の意思・管理状況等が問題になります。 |
| 通帳を名義人へ渡した | 管理・支配の移転を示す事情になり得る | いいえ。いつ・どのような事情で交付されたかを確認します。 |
これから現金・預金を贈与する場合の設計については、このページとは検索意図を分け、現金・預金の生前贈与|名義預金と判断されないための方法で解説しています。
裁決から見る|名義だけでは財産帰属は決まらない
名義預金は、国税不服審判所でも繰り返し争われてきた論点です。裁決を読む際に重要なのは「納税者が勝った・負けた」という結論だけではありません。
- 何が争点だったのか
- どのような事実が認定されたのか
- 原処分庁と納税者はそれぞれ何を主張したのか
- 審判所はどの事実を重視して判断したのか
以下では、裁決の結論を一般化せず、事実関係と判断を区別して紹介します。
孫名義の定期貯金について、被相続人を真実の所有者と認定
孫名義の定期貯金について、その資金源や管理状況が争われた事例です。審判所は、被相続人名義の他の定期貯金と届出住所・届出印鑑・申込書の筆跡が同一であったこと、利息の取扱い、被相続人に土地譲渡代金が入金していたことなどを検討しました。
被相続人が孫の名義を使用して定期貯金を設定したものと推認し、真実の所有者は被相続人であると認定しました。
名義だけではなく、原資、印鑑、筆跡、利息の取扱いなど複数の客観的事情を積み重ねて財産帰属を判断した事例です。
家族名義預貯金の「帰属」を個別具体的に検討
原処分庁が相続財産として更正処分を行った家族名義の各預貯金について、相続財産に当たるかが争われました。審判所では、各預貯金の原資、被相続人・家族による管理や運用、生活費との関係、印鑑票等の資料などが個別に検討されています。
家族名義の預貯金について、一括して同じ結論にするのではなく、各財産の具体的な形成・管理状況から帰属を判断しています。
「家族名義」「本人に十分な資力がなかった」といった一つの事情だけでは足りず、具体的な原資・管理実態を確認する必要があることが分かります。
令和3年9月17日裁決|同じような「毎年入金」でも判断は一律ではない
未成年者名義預金|法定代理人による贈与の受諾が重要な論点に
国税不服審判所が公表している事例では、被相続人が、当時未成年であった長女に毎年一定額を贈与する旨の贈与証を作成し、長女の母を介して長女名義口座へ毎年入金していました。
審判所は、長女の母が贈与証を預かり、当時長女の唯一の親権者であったこと、被相続人の依頼を受けて毎年入金し、通帳等を管理していたことなどから、母が長女の法定代理人として贈与の申込みを受諾し、その履行として入金していたと認定しました。
対象預金は口座開設当初から長女に帰属する財産であり、被相続人の相続財産には含まれないと判断されました。
「未成年者名義なら大丈夫」「母が通帳を持てば大丈夫」という意味ではありません。この事案では、贈与証、唯一の法定代理人である母による受諾、毎年の入金等の具体的事実が認定されています。
各年の入金時ではなく、その後の交付時に贈与成立・履行を認定した事例もある
同じ令和3年9月17日の公表裁決には、名義人が口座・贈与証の存在を認識していなかったことや、被相続人が通帳等を管理していたことなどから、各年の入金時点では贈与の成立を認めず、その後に金員・通帳等が名義人へ交付された時点の事実関係を踏まえて、贈与の成立・履行を認定したものもあります。
令和4年2月15日裁決|「贈与成立」の事例ではない
家族名義財産を被相続人へ帰属すると認定できるかが問題となった事例
この事案では、相続税申告に計上されていた被相続人・家族名義の預貯金口座から出金された現金や、申告に計上されていなかった家族名義預貯金について、被相続人の相続財産に当たるかが争われました。
被相続人と配偶者の収入・資産が家族名義口座も利用しながら管理されており、原資や管理状況など複雑な事実関係が検討されています。
配偶者名義預金について「夫の収入の方が多いから夫のもの」「専業主婦だから妻名義預金は夫のもの」と単純に処理するのではなく、原資・管理・夫婦双方の資産形成等を確認する必要があることを示唆する重要な事例です。
名義預金が心配なとき|何を確認すればよい?
- 通帳・取引履歴:被相続人と名義人双方について確認する
- 口座開設資料:開設者、届出住所、届出印、連絡先などを確認する
- 原資資料:給与、年金、退職金、不動産・株式売却代金、相続財産等を確認する
- 贈与資料:贈与契約書、贈与証、贈与税申告書、振込記録を確認する
- 管理資料:通帳・印鑑・カードを誰が保管していたか整理する
- 使用実績:名義人本人によるATM出金、振込、生活費・学費等への使用を確認する
- 配偶者名義:配偶者自身の給与・年金・婚姻前財産・相続財産等を確認する
- 未成年者名義:口座開設当時の親権者・法定代理人、管理経緯を確認する
相続税の税務調査では名義預金をどう確認する?
相続税の税務調査では、被相続人名義の預金残高だけを見るわけではありません。相続開始前の資金移動や家族名義口座との関係などから、申告された財産が適切か確認される場合があります。
家族名義預金について疑問が生じた場合には、原資、金融機関との取引、口座管理、名義人本人の認識・使用実績、贈与の経緯などが問題になります。
税務調査全体については、相続税の税務調査|税務署はどこを見る?で詳しく解説しています。
名義預金だった場合、相続税申告ではどうする?
検討の結果、家族名義預金が相続開始時点で実質的に被相続人へ帰属していたと判断される場合には、口座名義が妻・子・孫であっても、被相続人の相続財産として相続税申告へ計上することを検討します。
反対に、家族名義であることだけを理由に被相続人の財産へ加えるものでもありません。確認できる資料と事実関係に基づいて帰属を判断します。
死亡前の預金移動・大口出金とは分けて考える
家族名義口座への資金移動と、死亡前に被相続人名義口座から引き出された現金は関連することがありますが、論点は同じではありません。
死亡前出金では「出金後に何へ使われたか」「死亡時に現金として残っていたか」が重要になります。詳しくは、死亡前の預金引き出しは相続財産?大口出金・使途不明金を税理士が解説をご覧ください。
セルフチェック|家族名義の預金を見つけたら
- □ その口座の原資がどこから来たか説明できる
- □ 誰が口座を開設したか確認した
- □ 通帳・印鑑・キャッシュカードを誰が管理していたか分かる
- □ 名義人本人が口座の存在を知っていたか確認した
- □ 贈与と考える場合、誰から誰へ、いつ贈与したか説明できる
- □ 受贈者が贈与を受けることを受諾していたか確認した
- □ 名義人本人が預金を自由に使用・処分できたか確認した
- □ 妻名義なら、妻自身の収入・固有財産を確認した
- □ 大口の入出金について、相手方・使途を確認した
- □ 判断根拠となる通帳・契約書等を保存している
税務署はここを見る
税理士はここを見る
当事務所では、家族名義口座を見つけた段階で「名義預金である」「名義預金ではない」と先に結論を決めません。
まず預金取引を時系列に並べ、原資を追い、誰が口座を管理・運用していたのか、贈与が成立していたのか、名義人本人がどのように使用していたのかを確認します。そして、納税者に有利な事情・不利な事情の双方を整理した上で、相続開始時点の財産帰属を検討します。
特に配偶者名義預金では、長年の婚姻生活の中で夫婦双方の資産・収入が混在していることがあります。単純な収入割合や職業の有無だけで結論を出さず、資料から確認できる事実を積み上げることが重要です。
妻・子・孫名義の預金を相続財産に入れるべきか迷っている方へ
通帳の名義だけでは判断できません。取引履歴、資金原資、管理状況、贈与の経緯などを確認し、相続開始時点で誰に帰属する財産だったのかを整理します。
面談・相談を申し込む 相続税の税務調査を見る名義預金|よくある質問
Q. 妻名義の預金は、夫が亡くなったら夫の相続財産ですか?
妻名義というだけでも、夫の収入が原資というだけでも一律には決まりません。妻自身の給与・年金・婚姻前財産・相続財産、資金移動、口座管理、贈与の有無、使用状況などを確認して実質的な帰属を検討します。
Q. 子名義口座へ毎年110万円ずつ振り込んでいれば贈与ですか?
金額や振込の事実だけでは判断できません。民法上、贈与には贈与者の意思表示と受贈者の受諾が必要です。口座の認識、管理、使用状況等も含めて確認します。なお、110万円は贈与成立の要件ではありません。
Q. 通帳を親が保管していたら名義預金ですか?
通帳の保管は重要な事情ですが、それだけでは決まりません。未成年者の場合は法定代理人による管理という事情もあります。原資、贈与の受諾、口座開設経緯、使用状況等を総合して確認します。
Q. 贈与契約書があれば名義預金にはなりませんか?
贈与契約書は重要な資料になり得ますが、それだけで結論は決まりません。契約内容と実際の資金移動、口座管理、受贈者の認識・使用状況などが整合しているか確認します。
Q. 贈与税を申告していれば大丈夫ですか?
贈与税申告書は贈与を検討する上で重要な資料です。ただし、財産帰属は申告の有無だけでなく、具体的な事実関係から判断します。
Q. 子が小さかったので、親が通帳を管理していました。名義預金になりますか?
親が管理していたという事実だけでは判断できません。未成年者の場合、法定代理人による贈与の受諾・管理という場合もあります。令和3年9月17日裁決でも、法定代理人による受諾が重要な論点となっています。
Q. 家族名義預金が相続税申告から漏れていたら、必ず重加算税ですか?
必ずではありません。追加本税のほか加算税・延滞税が問題になる場合がありますが、どの加算税が適用されるかは、申告状況、修正時期、仮装・隠蔽の有無など個別事情によって異なります。
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根拠法令・国税庁・公表裁決
本ページは、2026年8月時点で確認できる民法、国税庁公表資料、国税不服審判所の公表裁決を中心に整理しています。裁決は個別事件における事実認定・判断であり、他の案件へ結論をそのまま当てはめることはできません。
- e-Gov法令検索「民法」(549条 贈与、550条 書面によらない贈与の解除)
- 東京国税局「暦年贈与サポートサービスを利用した場合の相続税法第24条の該当性について」(民法549条の贈与の成立、贈与による財産取得時期)
- 国税庁 No.4105「相続税がかかる財産」
- 国税不服審判所「預貯金」公表裁決事例一覧
- 国税不服審判所 平成28年11月8日裁決
- 国税不服審判所 令和3年9月17日裁決
- 国税不服審判所 令和4年2月15日裁決
当事務所の考え方
名義預金で最も避けたいのは、「妻名義だから妻のもの」「父が入金したから父のもの」「贈与契約書があるから大丈夫」と、一つの形式だけで結論を決めることです。
家族の長い生活の中で形成された預金では、資金の原資や管理が複雑になっていることがあります。また、相続開始から何十年も前の取引について、すべての資料が残っているとは限りません。
だからこそ当事務所では、民法上の贈与の成立を出発点に、原資、管理・運用、使用・処分、家族関係、残された資料を時系列で確認し、納税者に有利な事情・不利な事情の双方を整理した上で、相続開始時点の財産帰属を判断することを大切にしています。
名義預金かどうか、形式ではなく事実関係から確認します
妻・子・孫名義の預金について、通帳・取引履歴・贈与資料等を確認し、相続税申告に含めるべき財産かを整理します。
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