2018年(平成30年)相続法改正
現在の相続実務で重要な6つのポイント
2018年7月に成立した相続法改正は、現在では「これから始まる制度」ではありません。配偶者居住権、預貯金の払戻し、特別寄与料、遺留分侵害額請求、自筆証書遺言書保管制度など、現在の相続実務の基本となっています。
平成30年の相続法改正では、①配偶者の居住保護、②長期婚姻夫婦の居住用不動産、③遺産分割前の預貯金払戻し、④特別寄与料、⑤遺留分の金銭請求化、⑥自筆証書遺言の方式緩和・法務局保管制度などが整備されました。
重要なのは、改正当時の記事をそのまま読むのではなく、2026年現在どの制度がどう使われ、税務上どのような注意があるのかを確認することです。
施行時期|改正内容は一斉に始まったわけではありません
6つの改正を一覧で確認
| 改正 | 現在の制度 | 主な影響 |
|---|---|---|
| 配偶者居住権 | 一定の要件の下、配偶者が居住建物を無償で使用・収益できる権利 | 自宅の所有権と居住権を分けた遺産分割が可能 |
| 20年以上夫婦の居住用不動産 | 一定の遺贈・贈与について持戻し免除の意思表示を推定 | 遺産分割上、配偶者の取り分を確保しやすくなる場合 |
| 預貯金払戻制度 | 遺産分割前でも一定額を単独払戻し可能 | 当面の生活費・葬儀費用等への対応 |
| 特別寄与料 | 相続人以外の一定の親族が金銭請求できる制度 | 無償の療養看護等を一定の場合に金銭評価 |
| 遺留分 | 原則として金銭による「遺留分侵害額請求」 | 不動産等の当然共有化を避けやすくなった |
| 自筆証書遺言 | 財産目録の方式緩和+法務局保管制度 | 作成・保管・相続開始後の手続を改善 |
1配偶者居住権|自宅の「所有」と「住み続ける権利」を分ける
配偶者居住権は、配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に居住していた場合に、一定の要件の下で、その建物を終身または一定期間、無償で使用・収益できる権利です。
ただし、住んでいた配偶者に自動的に配偶者居住権が発生するわけではありません。遺産分割、遺贈、死因贈与等により配偶者居住権を取得する必要があります。
自宅を配偶者が取得すると、自宅の所有権価額が大きく、預貯金等を十分に取得できない場合がありました。
所有権と配偶者居住権を分けることで、「住み続けること」と他の財産取得を調整できる選択肢が増えました。
配偶者居住権を第三者に対抗するためには登記が重要になります。「配偶者居住権は必ず自動的に登記される」という制度ではありません。
配偶者居住権、敷地利用権、配偶者居住権が設定された建物・土地には、それぞれ相続税上の評価方法があります。単純に所有権の評価額を按分するわけではありません。また、敷地利用権については小規模宅地等の特例の適用関係も個別に確認します。
2婚姻20年以上の夫婦|居住用不動産の持戻し免除を推定
婚姻期間が20年以上の夫婦間で、一方の配偶者が他方へ居住用建物やその敷地を遺贈または贈与した場合、民法上、持戻し免除の意思表示があったものと推定されます。
そのため、遺産分割では原則として、その居住用不動産を特別受益として持ち戻して具体的相続分を計算する必要がない扱いとなります。
贈与税の配偶者控除は相続法改正とは別の税制です。相続法改正で変わったのは、遺産分割における持戻し免除の意思表示の推定です。
婚姻期間20年以上などの要件を満たす居住用不動産等の贈与では、暦年課税の基礎控除110万円とは別に、最高2,000万円の配偶者控除を適用できる場合があります。ただし、自宅を生前贈与すべきかは、相続税、不動産取得税、登録免許税、将来の売却等も含めて検討します。
「遺産分割の持戻しをしない」ことと、「遺留分算定の基礎財産に入らない」ことは同じではありません。制度ごとに計算を分けます。
3遺産分割前の預貯金払戻し|一定額なら単独で払戻し可能
遺産分割前であっても、各共同相続人は一定の範囲で、他の共同相続人の同意を得ずに預貯金の払戻しを受けることができます。
相続開始時の預貯金債権額 × 1/3 × 払戻しを求める相続人の法定相続分
ただし、同一金融機関からの払戻しは150万円が上限です。
この制度は「葬儀費用なら自由に引き出せる」という制度ではありません。使途を葬儀費用等に限定した制度ではなく、民法上定められた範囲で共同相続人が単独払戻しできる制度です。
遺産分割の審判・調停が係属している場合などには、家庭裁判所の判断による預貯金の仮分割の仮処分を検討する制度もあります。
被相続人の死亡前に家族が預金を引き出していたケースは、この払戻制度とは別に、相続財産への計上や使途の確認が問題になることがあります。
4特別寄与料|相続人以外の親族の貢献を一定の場合に金銭請求
被相続人に対して無償で療養看護その他の労務を提供し、被相続人の財産の維持・増加について特別の寄与をした相続人以外の一定の親族は、相続開始後、相続人に対して特別寄与料を請求できる場合があります。
親族であること、無償の療養看護等であること、財産の維持・増加について特別の寄与があることなど、要件を確認する必要があります。
当事者間で協議がまとまらない場合、家庭裁判所へ協議に代わる処分を求めることができます。請求には期間制限もあるため、相続開始後は早めの確認が必要です。
確定した特別寄与料は、特別寄与者が被相続人から遺贈により取得したものとみなされ、相続税の対象になります。2割加算については「特別寄与料だから必ず2割加算」ではなく、被相続人との続柄を基に相続税法18条の適用を判定します。
5遺留分制度の見直し|現物返還から金銭請求へ
改正前の遺留分減殺請求では、請求の結果、不動産等に共有関係が生じることがありました。改正後は、侵害された遺留分に相当する額を金銭で請求する「遺留分侵害額請求」が基本となりました。
遺留分を侵害されたからといって、不動産の持分が当然に移る制度ではなくなりました。受遺者・受贈者に対する金銭債権として処理します。
「10年以内の贈与」の意味
遺留分算定の基礎財産について、相続人に対してされた特別受益に当たる贈与は、原則として相続開始前10年間にされたものが対象となります。
一方、相続人以外への贈与などについては別の期間ルールがあります。また、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与した場合などの例外もあります。
誰に対する贈与か、特別受益に当たるか、贈与時期、当事者の認識などによって判断が変わります。
6自筆証書遺言|財産目録の方式緩和と法務局保管制度
① 財産目録は全文自書でなくてもよい
自筆証書遺言に添付する財産目録については、パソコンで作成した一覧、通帳のコピー、不動産の登記事項証明書等を利用できるようになりました。
財産目録の各ページへの署名・押印など、自筆証書遺言としての方式要件を確認する必要があります。
② 法務局の自筆証書遺言書保管制度
2020年7月10日から、法務局で自筆証書遺言書を保管する制度が運用されています。法務局で保管された遺言書については、相続開始後の家庭裁判所による検認が不要です。
- 原本と画像データを法務局で保管
- 紛失・破棄・改ざんリスクを低減
- 相続開始後、遺言書情報証明書等を取得可能
- 一定の通知制度がある
保管申請時には形式面の外形的確認がありますが、遺言内容の法律的妥当性や税務上の有利不利まで審査する制度ではありません。
2018年相続法改正で、実務上何が変わったのか
配偶者居住権や長期婚姻夫婦の持戻し免除推定により、自宅と他財産の配分を考えやすくなりました。
預貯金の一定額払戻しにより、分割前の資金需要へ対応できる仕組みができました。
特別寄与料制度により、親族の療養看護等を一定の場合に金銭請求できます。
遺留分侵害額請求が金銭債権化され、権利関係を整理しやすくなりました。
財産目録の方式緩和と法務局保管制度により、作成・保管の実務が改善されました。
配偶者居住権評価、特別寄与料、贈与税配偶者控除等、民法上の選択と税務が密接につながります。
税理士はここを見る|民法上よい選択と税務上よい選択は同じとは限りません
- 配偶者居住権を設定した場合の相続税評価
- 配偶者居住権の敷地利用権と小規模宅地等の特例
- 居住用不動産を生前贈与した場合の贈与税・取得コスト
- 特別寄与料が確定した場合の相続税申告・修正手続
- 遺留分侵害額請求が確定した場合の相続税への影響
- 遺言内容による相続税・二次相続・不動産共有への影響
相続法上の制度にはそれぞれ目的がありますが、財産構成、家族関係、税額、将来の売却・管理まで含めると最適な方法は変わります。
よくある質問
Q.配偶者居住権は、配偶者が自宅に住んでいれば自動的に発生しますか?
いいえ。相続開始時に居住していることは重要な要件ですが、遺産分割、遺贈等によって配偶者居住権を取得する必要があります。
Q.婚姻20年以上なら、自宅を2,000万円まで無税で贈与できますか?
贈与税の配偶者控除には婚姻期間、居住用不動産、居住時期等の要件があります。また2,000万円は配偶者控除額であり、今回の相続法改正で新設された制度ではありません。相続法改正は遺産分割上の持戻し免除の意思表示の推定を定めたものです。
Q.葬儀費用なら故人の預金を150万円まで自由に引き出せますか?
「葬儀費用だから150万円」という制度ではありません。各口座の相続開始時残高、法定相続分等から計算した額と、同一金融機関150万円という上限を確認します。
Q.親を介護した長男の妻は特別寄与料を請求できますか?
長男の妻は被相続人の親族に当たり得ますが、無償の療養看護等によって被相続人の財産の維持・増加について特別の寄与をしたことなど、要件を満たす必要があります。介護をしただけで当然に請求できるわけではありません。
Q.遺留分の計算では10年以上前の贈与は絶対に関係しませんか?
いいえ。「10年」は相続人への一定の特別受益に関する原則的な期間です。贈与先や贈与の内容、当事者の認識等により別のルールや例外があります。
Q.法務局で保管した自筆証書遺言なら、内容も必ず有効ですか?
いいえ。法務局は保管申請時に形式面を外形的に確認しますが、遺言内容の法律上の有効性を保証する制度ではありません。複雑な分割や税務を伴う場合は内容面の検討も重要です。
当事務所の考え方|法改正は「知る」だけでなく、現在の財産に当てはめる
2018年の相続法改正は、現在では相続実務の基本制度となっています。しかし、制度があるからといって、すべての相続で使うべきとは限りません。
例えば、配偶者居住権を使うか、自宅を配偶者へ所有権で相続させるか、生前贈与をするか、遺言で取得させるかによって、民法上の効果だけでなく相続税、将来の売却、二次相続まで変わります。
当事務所では、制度の説明ではなく、ご家族の状況に当てはめたときに何が変わるのかを整理することを重視しています。
主な根拠・参考情報
・法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)」
・法務省「自筆証書遺言書保管制度」
・国税庁 No.4666「配偶者居住権等の評価」
・国税庁 No.4452「夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」
・国税庁 No.4105「相続税がかかる財産」
・国税庁 No.4157「相続税額の2割加算」
※本ページは2018年相続法改正を2026年現在の制度に基づき一般的に説明したものです。個別の適用関係は、相続開始日、遺言、贈与時期、家族関係、財産内容等により異なります。


















