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限定承認とは?単純承認との違い・先買権・みなし譲渡所得を税理士が解説

限定承認とは?単純承認との違い・先買権・みなし譲渡所得を税理士が解説

相続が開始した場合、相続人は、原則として 単純承認、相続放棄、限定承認のいずれかを選択することになります。

単純承認は、預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、 借入金、未払金、保証債務などのマイナスの財産も含めて、 被相続人の権利義務を原則として承継する方法です。

これに対して限定承認は、 相続によって得た財産の限度において、 被相続人の債務および遺贈を弁済することを留保して相続を承認する制度です。

限定承認は、相続財産と債務のどちらが多いか分からない場合や、 債務がある一方で、自宅、収益不動産、事業用資産など、 手元に残すことを検討したい財産がある場合に選択肢となることがあります。

しかし、限定承認は、単に 「プラスの財産の範囲だけ借金を負担すればよい」 というだけの制度ではありません。

共同相続の場合には、相続放棄をした者を除く共同相続人全員で申述する必要があり、 申述受理後には、債権者への公告・催告、相続財産の換価、 債務および遺贈の弁済などの清算手続を行います。

さらに、所得税法上、限定承認により一定の資産が移転した場合には、 被相続人が相続開始時にその資産を時価で譲渡したものとみなされます。 土地、建物、株式などに含み益がある場合には、 被相続人について譲渡所得が生じる可能性があります。

このページでは、単純承認と限定承認の違い、 限定承認の要件、手続、いわゆる先買権、 みなし譲渡所得、準確定申告、相続税との関係について、 税理士の視点から解説します。

限定承認には原則として3か月の期限があります

限定承認は、原則として、 自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、 相続財産目録を作成して家庭裁判所へ申述する必要があります。 限定承認を検討する場合には、財産や債務を処分する前に、 早めに弁護士・税理士等へ相談することが重要です。

相続には3つの選択肢があります

相続人が選択する相続方法には、主に次の3つがあります。

単純承認
被相続人の財産上の権利義務を、原則として制限なく承継する方法です。

相続放棄
家庭裁判所へ申述し、その相続について初めから相続人ではなかったものとして扱われる方法です。

限定承認
相続によって得た財産の限度において、被相続人の債務および遺贈を弁済することを留保して、相続を承認する方法です。

どの方法が適しているかは、財産額と債務額だけでは判断できません。 残したい財産の有無、保証債務の可能性、共同相続人の意向、 不動産等の含み益、所得税および相続税への影響を含めて検討します。

単純承認とは

単純承認とは、被相続人の財産に属した権利義務を、 原則として制限なく承継する方法です。

単純承認をすると、一般的には次のようなプラスの財産を承継します。

・現金、預貯金
・土地、建物
・上場株式、投資信託
・非上場株式
・自動車
・貸付金
・事業用資産
・被相続人に帰属する保険金請求権

一方、一般的には次のような債務も承継します。

・金融機関等からの借入金
・事業に関する買掛金、未払金
・保証債務、連帯保証債務
・未払医療費、施設利用料
・被相続人に課されていた税金
・損害賠償債務

相続財産よりも債務の方が多い場合には、 相続した財産だけでは返済できず、 相続人の固有財産から支払わなければならない可能性があります。

法定単純承認とは

相続人が明示的に単純承認の意思表示をしていなくても、 民法所定の事由に該当すると、 単純承認をしたものとみなされることがあります。 これを法定単純承認といいます。

主に、次のような場合が定められています。

・相続人が相続財産の全部または一部を処分した場合
・熟慮期間内に限定承認または相続放棄をしなかった場合
・限定承認または相続放棄をした後に、相続財産の全部または一部を隠匿した場合
・限定承認または相続放棄をした後に、相続財産を私的に消費した場合
・限定承認をした後、悪意で相続財産を財産目録に記載しなかった場合

ただし、相続財産に関する行為をした場合に、 すべて一律に法定単純承認となるわけではありません。

民法には、相続財産の保存に必要な行為などについて例外があり、 行為の内容、目的、財産的価値、必要性などにより個別に判断されます。

例えば、被相続人名義の預貯金を引き出し、 相続人自身の生活費や個人的な支払に使用した場合には、 相続財産の処分として法定単純承認に該当する可能性があります。

一方、相続財産の毀損を防ぐために行った保存行為などは、 直ちに法定単純承認に該当するとは限りません。

相続放棄または限定承認を検討している場合には、 預貯金の解約、不動産・自動車・株式の売却、 価値のある家財の処分、遺産分割、債務の返済などを行う前に、 弁護士等へ確認してください。

限定承認とは

限定承認とは、相続人が、 相続によって得た財産の限度において、 被相続人の債務および遺贈を弁済することを留保して、 相続を承認する制度です。

例えば、相続財産が5,000万円で、 債務が7,000万円であったとします。

限定承認の手続が適切に行われた場合、 相続人は原則として、相続によって得た財産の限度で責任を負います。 したがって、相続財産を超える2,000万円について、 当然に相続人の固有財産から返済しなければならないということにはなりません。

反対に、相続財産が7,000万円、債務等が5,000万円であり、 清算費用等を支払った後にも財産が残った場合には、 その残余財産を相続人が取得することになります。

ただし、限定承認後の相続財産は、 相続人が自由に使用または処分できるものではありません。

限定承認者または相続財産清算人は、 相続財産と相続人の固有財産を区別して管理し、 法定の手続に従って債権者および受遺者に弁済する必要があります。

単純承認・相続放棄・限定承認の違い

比較項目 単純承認 相続放棄 限定承認
法律上の効果 被相続人の財産上の権利義務を原則として制限なく承継します その相続について初めから相続人ではなかったものと扱われます 相続財産の限度で債務等を弁済することを留保して相続します
プラスの財産 原則として承継します 原則として承継しません 清算後に残った財産を取得できます
債務 原則として制限なく承継します 相続人としては原則として承継しません 相続によって得た財産の限度で責任を負います
家庭裁判所への申述 通常は必要ありません 必要です 必要です
手続を行う人 相続人 各相続人が個別に申述できます 共同相続の場合は、相続放棄者を除く共同相続人全員で申述します
期限 熟慮期間内に相続放棄または限定承認をせず、期間が経過した場合は原則として単純承認となります 原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内です 原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内です
清算手続 限定承認のような法定の清算手続は通常ありません 限定承認のような法定の清算手続は通常ありません 公告、催告、換価、弁済等の清算手続が必要です
残したい財産 遺産分割等により取得を検討できます 原則として取得できません いわゆる先買権を利用して、競売を止める方法を検討できる場合があります
所得税 通常の相続では、原則として被相続人の取得費等を相続人が引き継ぎます 相続放棄そのものにより、通常、限定承認と同じみなし譲渡課税は生じません 一定の資産について、相続開始時の時価によるみなし譲渡課税が問題となります

限定承認を検討する主なケース

財産と債務のどちらが多いか分からない場合

被相続人が事業を営んでいた場合や、 複数の借入れ、保証債務、未払金などがある場合には、 短期間で債務の全体像を把握できないことがあります。

相続放棄をすれば債務を原則として承継しない一方で、 価値のある相続財産も取得できません。

相続財産が残る可能性があるものの、 債務超過の危険も否定できない場合には、 限定承認が選択肢となることがあります。

保証債務の金額や発生可能性が分からない場合

被相続人が会社や第三者の借入れについて 保証人または連帯保証人となっていた場合、 通帳や不動産資料だけでは保証債務を把握できないことがあります。

保証債務が将来現実化する可能性がある一方で、 相続財産を直ちに放棄したくない事情がある場合には、 限定承認や熟慮期間の伸長を含めて検討します。

自宅や事業用資産を手元に残したい場合

被相続人に債務がある一方で、 相続人が居住している自宅、事業用不動産、 収益不動産などが含まれていることがあります。

相続放棄をすると、これらの財産も原則として承継できません。

限定承認では、後述する民法上の制度を利用し、 限定承認者が家庭裁判所の選任した鑑定人の評価額を支払うことにより、 対象財産の競売を止める方法を検討できる場合があります。

限定承認の主な要件

共同相続人全員で申述する必要があります

共同相続の場合、限定承認は、 共同相続人全員が共同して行わなければなりません。

ただし、相続放棄をした者は、 その相続について初めから相続人ではなかったものと扱われます。

したがって、正確には、 相続放棄をした者を除く共同相続人全員で、 限定承認を申述することになります。

共同相続人の一部だけが限定承認をし、 他の共同相続人は単純承認をするという方法は認められていません。

なお、相続人が一人だけの場合には、 その相続人が単独で限定承認を申述します。

原則として3か月以内に申述します

限定承認は、原則として、 自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、 家庭裁判所へ申述する必要があります。

この期間内に財産や債務を調べ切れない場合には、 期間内に家庭裁判所へ 「相続の承認又は放棄の期間の伸長」を申し立てる方法があります。

ただし、期間伸長は自動的に認められるものではありません。 また、ある共同相続人について期間が伸長されても、 当然に他の共同相続人の期間まで伸長されるとは限りません。

相続財産目録を作成します

限定承認の申述に当たっては、 相続財産目録を作成し、家庭裁判所へ提出します。

主に、次の財産や債務を調査します。

・現金、預貯金
・土地、建物
・上場株式、投資信託
・非上場株式
・自動車
・事業用資産
・貸付金、未収金
・借入金
・保証債務
・買掛金、未払金
・滞納税金その他の公租公課

相続財産を故意に隠匿した場合や、 限定承認後に悪意で財産目録へ記載しなかった場合には、 法定単純承認が問題となる可能性があります。

限定承認の申述先と主な必要書類

限定承認の申述先は、 被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。

一般的には、次の書類等を準備します。

・相続の限定承認の申述書
・申述人目録
・相続財産目録
・被相続人の住民票除票または戸籍附票
・被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等
・申述人および相続関係に応じて必要となる戸籍謄本等
・収入印紙
・家庭裁判所が指定する連絡用郵便切手

必要となる戸籍は、 配偶者・子が相続人となる場合と、 直系尊属・兄弟姉妹・甥姪が相続人となる場合とで異なります。

また、必要書類や郵便切手の内訳については、 申述先の家庭裁判所へ事前に確認してください。

裁判所「相続の限定承認の申述」

限定承認の申述後に行う清算手続

限定承認は、家庭裁判所に申述が受理されれば 終了する手続ではありません。

申述受理後には、民法の規定に従って、 公告、催告、換価、弁済などの清算手続を行う必要があります。

単独相続の場合

相続人が一人で限定承認をした場合には、 その限定承認者が、相続財産の管理および清算手続を行います。

共同相続の場合

共同相続人が限定承認をした場合には、 家庭裁判所は、共同相続人の中から 相続財産清算人を選任します。

相続財産清算人は、共同相続人を代表して、 相続財産の管理、公告、催告、換価および弁済等を行います。

官報公告と個別催告

限定承認者または相続財産清算人は、 限定承認をしたこと、および一定期間内に債権の請求を申し出るべきことを 官報に公告しなければなりません。

公告を行う期限は、次のように異なります。

・相続人が一人の場合
限定承認をした後5日以内

・共同相続の場合
相続財産清算人が選任された後10日以内

公告に定める債権の申出期間は、 2か月を下ることができません。

また、既に判明している相続債権者および受遺者に対しては、 官報公告だけでなく、個別に債権等を申し出るよう催告する必要があります。

限定承認の申述受理後は、短期間のうちに官報公告を行う必要があります。 申述が受理されてから初めて専門家を探すのではなく、 申述前から弁護士等と清算手続の準備を進めることが重要です。

公告期間中の弁済

限定承認者または相続財産清算人は、 公告で定めた期間内は、原則として、 相続債権者および受遺者に対する弁済を拒むことができます。

債権者の全体像が分からない段階で、 一部の債権者だけに弁済すると、 他の債権者に損害を与える可能性があります。

担保権を有する債権者については別途の取扱いが問題となるため、 抵当権、質権、先取特権などの有無を確認する必要があります。

相続財産の換価

相続財産を換価する必要がある場合には、 民法に定められた方法に従って手続を進めます。

限定承認者が、相続財産を自由な価格で自分自身や親族、 関係法人へ移転できる制度ではありません。

相続債権者等への弁済

相続財産の換価等により弁済原資を確保し、 法律上の優先関係に従って、 相続債権者および受遺者への弁済を行います。

相続財産ですべての債務を弁済できない場合には、 相続財産の範囲内での弁済となります。

清算手続に違反し、不当な弁済等によって 他の債権者や受遺者に損害を生じさせた場合には、 限定承認者等が損害賠償責任を負う可能性があります。

残余財産の取得

相続債務、遺贈、清算費用等を支払った後に財産が残った場合には、 その残余財産が相続人に帰属します。

共同相続の場合に、残った財産を誰が取得するかについては、 遺言や遺産分割等に従って整理します。

限定承認者のいわゆる先買権とは

限定承認の清算手続では、 相続財産を換価して債権者への弁済原資とすることがあります。

しかし、相続財産の中に、 自宅、収益不動産、事業用不動産など、 限定承認者が手元に残したい財産が含まれることがあります。

民法では、限定承認者が、 家庭裁判所の選任した鑑定人の評価に従って 相続財産の全部または一部の価額を弁済することにより、 その財産についての競売を止めることができると定めています。

この制度は、一般に 「限定承認者の先買権」 と呼ばれています。

ただし、民法の条文上、 一般的な不動産売買における優先購入権として 「先買権」という名称が定められているわけではありません。

正確には、限定承認者が鑑定人の評価額を支払うことにより、 対象財産の競売を止めることができる制度です。

いわゆる先買権を利用する場合の流れ

一般的には、次のような流れで検討します。

・家庭裁判所へ鑑定人選任の申立てをする
・家庭裁判所が鑑定人を選任する
・鑑定人が対象財産の価額を評価する
・限定承認者が鑑定評価額に相当する金銭を支払う
・支払われた金銭を相続財産の清算・弁済原資とする
・対象財産について競売を止める

支払額は、固定資産税評価額や相続税評価額、 不動産会社の簡易査定額によって自由に決められるものではありません。

家庭裁判所が選任した鑑定人による評価額が基準となります。

限定承認者自身が資金を準備します

いわゆる先買権を利用するためには、 限定承認者が鑑定評価額に相当する資金を準備する必要があります。

限定承認者が、清算対象である相続財産の金銭を 自由に使用して支払うという制度ではありません。

実際には、限定承認者の固有財産、 親族等からの適法な借入れ、 金融機関からの融資などによる資金準備を検討します。

担保権がある場合は別途検討が必要です

対象不動産に抵当権等が設定されている場合には、 いわゆる先買権を利用しただけで、 当然に担保権が消滅するとは限りません。

被担保債権の金額、担保権の内容、 競売手続の状況などを確認し、 担保権者との関係を別途整理する必要があります。

限定承認と資産管理会社・法人化の関係

収益不動産が相続財産に含まれている場合、 将来的に資産管理会社で保有したいというご相談があります。

ただし、 資産管理会社が限定承認者に代わって、 いわゆる先買権を直接行使できる制度ではありません。

限定承認者の先買いに関する制度を利用できるのは、 限定承認者です。

一般的には、次の順序で検討します。

・共同相続の場合は、相続放棄者を除く共同相続人全員で限定承認を申述する

・家庭裁判所へ鑑定人選任の申立てをする

・限定承認者が鑑定評価額に相当する金銭を支払う

・対象不動産について競売を止め、清算手続を進める

・清算後、その不動産の法人への譲渡、現物出資、管理委託等を別途検討する

限定承認により相続した不動産を後日法人へ移転する場合には、 限定承認とは別の取引として税務を検討します。

主に、次の税金・費用が問題となります。

・個人側の譲渡所得税および復興特別所得税
・法人側の受贈益または取得価額
・登録免許税
・不動産取得税
・建物等に係る消費税
・司法書士報酬その他の移転費用

そのため、 「法人で不動産を保有したい」という目的だけで 限定承認を選択することは適切ではありません。

まず、限定承認が相続全体として適切かを検討し、 その後に法人活用の有利・不利を別途検討する必要があります。

限定承認と法人化は別の段階の検討です

限定承認、いわゆる先買権による競売の停止、 清算後の不動産保有、法人への移転は、 それぞれ別の法的・税務上の問題です。 一連の取引を一つの手続として扱わないよう注意が必要です。

限定承認に伴うみなし譲渡所得

通常の単純承認による相続では、 被相続人が保有していた土地、建物、株式などに含み益があっても、 相続開始時に、その含み益へ直ちに譲渡所得税が課税されるわけではありません。

通常は、相続人が被相続人の取得費および取得時期を引き継ぎ、 将来その資産を譲渡した時に、譲渡所得を計算します。

これに対し、限定承認により、 譲渡所得の基因となる資産が移転した場合には、 所得税法上、被相続人が相続開始時にその資産を 時価で譲渡したものとみなされます。

この取扱いを、一般に 限定承認に伴うみなし譲渡所得課税 と呼びます。

みなし譲渡所得の対象となり得る主な資産は、次のとおりです。

・土地
・建物
・借地権等の権利
・上場株式
・非上場株式
・投資信託
・ゴルフ会員権などの譲渡所得の基因となる資産

預貯金については、通常、額面額と時価との間に 土地や株式のような含み益は生じません。

みなし譲渡所得の概算例

被相続人が2,000万円で取得した土地について、 相続開始時の時価が8,000万円であったとします。

説明を簡略化し、譲渡費用等を考慮しない場合、 譲渡益の概算は次のようになります。

8,000万円 − 2,000万円 = 6,000万円

この6,000万円を基礎として、 取得時期、所有期間、他の譲渡損益、 適用可能な特例等を踏まえて譲渡所得税額を計算します。

実際の計算では、次の項目を確認します。

・相続開始時における資産の時価
・被相続人の取得費
・取得時期
・建物の減価償却費相当額
・設備費、改良費
・譲渡費用として認められる費用
・他の譲渡所得との損益関係
・適用可能な租税特別措置

相続税評価額と所得税法上の時価は同じとは限りません

限定承認のみなし譲渡所得を計算する際の時価は、 通常売買される価額を前提として検討します。

相続税の路線価評価額や固定資産税評価額を、 そのまま所得税法上の時価として使用できるとは限りません。

不動産の場合には、所在地、面積、形状、法令上の制限、 収益性、賃貸借関係、取引事例などを踏まえて時価を検討します。

国税庁「譲渡所得の対象となる資産と課税方法」

取得費が分からない不動産に注意してください

先代や先々代から保有している不動産では、 購入時の売買契約書や領収書が残っておらず、 取得費が分からないことがあります。

取得費を十分に確認できない場合には、 譲渡所得の計算上、実際の取得費に代えて 概算取得費を用いることを検討する場合があります。

ただし、概算取得費は、原則として譲渡価額の5%相当額であるため、 実際の取得費より著しく低くなり、 譲渡所得が大きく計算される可能性があります。

限定承認を選択する前に、次の資料を調査することが重要です。

・購入時の売買契約書
・購入代金の領収書、振込記録
・仲介手数料等の領収書
・登記済権利証に綴られた資料
・建築請負契約書
・増改築工事の契約書、領収書
・過去の確定申告書
・青色申告決算書、収支内訳書
・減価償却資産台帳
・借入金契約書、返済予定表
・取得時の不動産会社や金融機関に残る資料

限定承認と準確定申告

被相続人について確定申告をする義務がある場合には、 相続人は原則として、 相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に、 被相続人の所得について準確定申告を行います。

限定承認により、 被相続人にみなし譲渡所得が生じた場合には、 その譲渡所得を準確定申告に反映します。

ただし、 限定承認をしたという事実だけで、 すべての事案において必ず納税額が生じるとは限りません。

また、被相続人について申告義務がない場合まで、 一律に「限定承認をしたため必ず準確定申告書を提出する」 と断定することは適切ではありません。

準確定申告の要否および税額は、 被相続人の所得、みなし譲渡損益、 所得控除、源泉徴収税額等を確認して判断します。

準確定申告では、みなし譲渡所得のほか、 死亡日までに生じた次の所得等も確認します。

・給与所得
・公的年金等に係る雑所得
・不動産所得
・事業所得
・配当所得
・通常の譲渡所得
・一時所得、雑所得

限定承認の申述期限は原則として3か月、 準確定申告の期限は原則として4か月です。

限定承認の申述後に初めて不動産の時価や取得費を調べ始めると、 準確定申告までの時間が極めて限られます。

限定承認を検討する段階から、 資産の時価、取得費、含み損益、 概算所得税額を確認することが重要です。

みなし譲渡に係る所得税の取扱い

限定承認に伴うみなし譲渡所得は、 被相続人の所得として計算し、 申告義務がある場合には準確定申告を行います。

その所得税等は、被相続人に係る債務として、 限定承認の清算手続において取り扱うことになります。

ただし、国税については、 国税通則法その他の税法上の納税義務の承継、 徴収手続等も関係します。

相続債務一般と全く同じ処理になると単純化せず、 申告者、納税義務者、納付原資、納付期限について 税理士および必要に応じて税務署へ確認する必要があります。

相続開始後の家賃収入

被相続人が賃貸不動産を所有していた場合、 死亡日までに帰属する家賃収入は、 被相続人の準確定申告に反映します。

死亡後に生じた家賃収入は、 被相続人の死亡日までの所得とは区別して、 相続人側の所得として取り扱うことを検討します。

限定承認の場合には、 清算対象となる相続財産から生じた収益としての管理と、 所得税法上、誰の所得として申告するかという問題を 分けて整理する必要があります。

主に、次の記録を保存してください。

・家賃の入金日および対象期間
・賃貸借契約書
・管理会社の送金明細
・管理費、修繕費
・借入金利息
・固定資産税
・火災保険料その他の経費

限定承認と相続税

限定承認をした場合でも、 相続税の課税価格が基礎控除額を超える場合などには、 相続税申告が必要となる可能性があります。

相続税の申告期限は、原則として、 被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。

限定承認の清算手続が継続している場合であっても、 相続税の申告期限が当然に延長されるわけではありません。

申告期限までに把握できる財産、債務、 取得関係等を基に申告内容を検討します。

その後、清算の結果等により課税関係が変動した場合には、 修正申告または更正の請求等が必要となる可能性があります。

限定承認では、少なくとも次の申告を相互に整合させる必要があります。

・被相続人の準確定申告
・相続開始後の相続人の所得税申告
・相続税申告

限定承認のメリット

限定承認には、一般的に次のようなメリットがあります。

・相続によって得た財産を超える債務について、原則として固有財産から負担しないで済む
・債務額が不明でも、清算後に残余財産があれば取得できる
・相続放棄と異なり、相続財産が残る可能性を維持できる
・いわゆる先買権により、特定の財産について競売を止める方法を検討できる

特に、財産と債務のどちらが多いか分からず、 相続放棄により価値のある財産を失いたくない場合には、 検討する意義があります。

限定承認のデメリット・注意点

一方、限定承認には次のような負担があります。

・共同相続の場合、相続放棄者を除く共同相続人全員の協力が必要になる
・原則として3か月以内に申述する必要がある
・相続財産目録を作成する必要がある
・官報公告および判明している債権者等への個別催告が必要になる
・相続財産の管理、換価および弁済が必要になる
・清算手続に相当の時間を要する場合がある
・官報公告費用、鑑定費用、専門家報酬等が発生する
・含み益のある資産について、みなし譲渡所得税が生じる可能性がある
・いわゆる先買権を利用する場合には、鑑定評価額相当の資金が必要になる
・担保権者その他の債権者との調整が必要になる

限定承認は、相続財産と債務の単純な差額だけで 有利・不利を判断できる制度ではありません。

限定承認を選ぶ前に確認したい事項

限定承認を検討する場合には、 少なくとも次の項目を事前に確認します。

・預貯金、有価証券、不動産等の財産額
・借入金、保証債務、未払金、滞納税金
・不動産、株式等の相続開始時の時価
・不動産、株式等の取得費
・限定承認に伴うみなし譲渡所得税の概算額
・被相続人のその他の所得税額
・相続税の概算額
・不動産鑑定費用
・官報公告費用
・弁護士、税理士、司法書士等の専門家費用
・いわゆる先買権を利用する場合の資金調達方法
・清算期間中の管理費、修繕費、固定資産税等

限定承認についてよくある誤解

欲しい財産だけを選んで相続する制度ではありません

限定承認は、 欲しい財産だけを取得し、 不要な財産や債務だけを放棄する制度ではありません。

相続財産全体を清算し、 債務および遺贈等を弁済した後に、 残った財産を取得する制度です。

共同相続人の一人だけでは申述できません

共同相続の場合には、 相続放棄をした者を除く共同相続人全員で 限定承認を申述する必要があります。

限定承認をすれば税金が発生しないわけではありません

限定承認により一定の資産が移転した場合には、 その資産が相続開始時の時価で譲渡されたものとみなされます。

資産に含み益がある場合には、 被相続人について譲渡所得税等が生じる可能性があります。

限定承認をすれば必ず準確定申告が必要とは限りません

限定承認をしたという事実だけで、 すべてのケースにおいて必ず納税額が生じるわけではありません。

被相続人の所得、みなし譲渡損益、所得控除、 源泉徴収税額等を確認し、 準確定申告の要否を判断する必要があります。

資産管理会社が直接先買いできる制度ではありません

民法上、鑑定評価額を支払って競売を止めることができるのは、 限定承認者です。

資産管理会社が限定承認者に代わって、 この権利を直接行使する制度ではありません。

申述が受理されても手続は終了しません

限定承認は、家庭裁判所における申述受理後に、 官報公告、個別催告、換価、弁済等の清算手続が始まります。

限定承認について専門家へ相談する意味

家庭裁判所への申述代理、 債権者との法律交渉、 相続財産の清算に関する法律事務、 法的紛争への対応は、弁護士の担当領域です。

司法書士は、限定承認申述書等の 裁判所提出書類の作成や不動産登記等を担当できますが、 原則として依頼者を代理して、 家庭裁判所の手続や債権者との法律交渉を行うものではありません。

税理士は、主に次の税務を検討します。

・限定承認に伴うみなし譲渡所得の試算
・不動産、株式等の時価の検討
・被相続人の取得費の調査
・被相続人の準確定申告
・相続開始後の不動産所得等の申告
・相続税申告
・いわゆる先買権を利用した後の税務
・資産管理会社へ不動産を移転する場合の税務

限定承認は、法務手続と税務申告が密接に関係します。 申述前から弁護士と税理士が連携して検討することが重要です。

当事務所で行う税務上の検討

みなし譲渡所得税を事前に試算します

土地、建物、上場株式、非上場株式等について、 相続開始時の時価、取得費、取得時期等を確認し、 みなし譲渡所得税の概算額を試算します。

取得費に関する資料を調査します

売買契約書、建築請負契約書、 過去の確定申告書、減価償却明細等から、 取得費として認められる資料を検討します。

準確定申告と相続税申告を整理します

限定承認に伴うみなし譲渡所得を含む準確定申告と、 相続財産および債務を反映した相続税申告を整理します。

収益不動産の死亡日前後の所得を区分します

死亡日前後の家賃収入、管理費、修繕費、 借入金利息等を区分し、 所得税の申告関係を確認します。

清算後の法人活用を比較します

限定承認の清算後に不動産を個人で保有する場合と、 資産管理会社へ譲渡等をする場合について、 所得税、法人税、登録免許税、不動産取得税、 消費税、将来の相続税等を比較します。

限定承認の相談時に確認したい資料

ご相談の際には、次の資料をご準備ください。 すべてそろっていない場合でも、期限があるため早めにご相談ください。

・被相続人の氏名、死亡日、最後の住所
・相続関係が分かる戸籍謄本等
・預貯金通帳、残高証明書
・不動産の登記事項証明書
・固定資産税納税通知書、課税明細書
・不動産の売買契約書
・建築請負契約書、増改築資料
・借入金の返済予定表
・抵当権等の内容が分かる資料
・保証契約書、保証債務に関する通知
・被相続人の確定申告書、決算書
・株式、投資信託の残高資料
・非上場会社の決算書、株主名簿
・賃貸借契約書、家賃入金資料
・請求書、督促状、被相続人宛ての郵便物
・既に処分、使用または支払をした財産・債務の記録

資料がすべてそろう前にご相談ください

限定承認の申述期限は原則として3か月です。 資料がすべてそろうまで待つのではなく、 現在分かっている内容を基に、 追加調査、税額試算および期間伸長の必要性を整理します。

限定承認に関するよくあるご質問

共同相続人の一人だけで限定承認できますか?

共同相続の場合にはできません。 相続放棄をした者を除く共同相続人全員で、 家庭裁判所へ申述する必要があります。

相続人が一人だけの場合には、 その相続人が単独で限定承認を申述します。

他の相続人が相続放棄した場合はどうなりますか?

相続放棄をした者は、 その相続について初めから相続人ではなかったものと扱われます。

そのため、相続放棄をした者を除いた 共同相続人全員で限定承認を申述します。

限定承認をすれば、借金を一切支払わなくてよいですか?

いいえ。 限定承認では、相続によって得た財産の限度において、 被相続人の債務および遺贈を弁済します。

相続財産を超える部分について、 原則として相続人の固有財産から責任を負わないという制度です。

限定承認をすれば、欲しい不動産だけ残せますか?

自由に選んで残せるわけではありません。

限定承認の清算手続では、 必要に応じて相続財産を換価し、 債権者への弁済に充てます。

限定承認者が特定の財産について競売を止めたい場合には、 家庭裁判所が選任した鑑定人の評価額を支払う方法を検討します。

資産管理会社がいわゆる先買権を行使できますか?

資産管理会社が限定承認者に代わって、 直接行使する制度ではありません。

鑑定評価額を支払って競売を止めることができるのは、 限定承認者です。

限定承認では必ずみなし譲渡所得税が発生しますか?

必ず税額が生じるわけではありません。

対象資産の相続開始時の時価が取得費等を上回り、 譲渡益が生じる場合などに、 所得税が発生する可能性があります。

含み損がある場合や所得控除等がある場合を含め、 被相続人の所得全体を計算して判断します。

相続税評価額を時価として使えますか?

必ずしも使えるとは限りません。

相続税評価額と、 限定承認のみなし譲渡所得を計算するための時価は、 評価の目的が異なります。

所得税法上の時価について、 通常売買される価額を基礎として検討する必要があります。

限定承認は後から撤回できますか?

限定承認の申述が家庭裁判所に受理された後は、 熟慮期間内であっても、原則として自由に撤回することはできません。

そのため、申述前に清算手続、税負担、費用および いわゆる先買権のための資金準備まで検討することが重要です。

限定承認の清算にはどのくらい時間がかかりますか?

相続財産や債権者の数、不動産の換価、 担保権、訴訟の有無等によって異なります。

官報公告では2か月以上の債権申出期間を設ける必要があり、 不動産、事業資産、保証債務等がある場合には、 相当の期間を要する可能性があります。

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限定承認を検討している方は申述前にご相談ください

限定承認は、相続によって得た財産を超える債務について、 原則として固有財産から責任を負わないという特徴があります。

一方、申述受理後には複雑な清算手続が必要となり、 含み益のある不動産や株式については、 みなし譲渡所得税が生じる可能性があります。

また、特定の財産について競売を止める制度を利用する場合には、 家庭裁判所の選任した鑑定人による評価額に相当する資金を 準備する必要があります。

申述後に、 「想定していなかった所得税が発生した」 「競売を止めるための資金を用意できなかった」 「公告期限への対応が間に合わなかった」 という事態を避けるため、 申述前に法務・税務の両面を確認することが重要です。

限定承認・みなし譲渡所得・相続税をまとめて検討します

相続財産、債務、不動産の時価、取得費、 みなし譲渡所得税および相続税を確認し、 限定承認が適切かを税務面から整理します。

武蔵野市・吉祥寺を中心に、 三鷹市、調布市、小金井市、国分寺市、国立市、立川市、昭島市、 杉並区、練馬区、府中市、稲城市などの相続税相談に対応しています。

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この記事の監修

佐々木税務会計事務所

相続税申告、準確定申告、相続財産の評価、 不動産評価、非上場株式評価、生前贈与、 不動産を含む相続対策などを取り扱う税理士事務所です。 限定承認を検討する際には、 弁護士・司法書士の担当領域を踏まえながら、 みなし譲渡所得、準確定申告、相続税、 清算後の不動産税務などを整理します。

ご注意

本ページは、単純承認、限定承認および関連する税務について、 一般的な情報を提供することを目的としています。

限定承認を選択すべきか、 法定単純承認が成立しているか、 特定の財産について競売を止める制度を利用できるか、 清算手続をどのように進めるかについては、 個別の事情によって判断が異なります。 家庭裁判所への申述代理、債権者との交渉、 相続財産の清算その他の法律事務については、 弁護士へご相談ください。

 
この記事を担当した執筆者
佐々木税務会計事務所 共同代表 佐々木 清子
保有資格税理士・行政書士
専門分野相続税・家族問題・不動産
経歴大手税理士法人において、相続税申告、財産評価、遺産分割、生前対策、相続手続など、数多くの資産税案件に携わった後、佐々木税務会計事務所の共同代表として現在に至ります。 これまで、遺産総額数千万円規模の一般のご家庭から、数百億円規模の資産を有する地主・企業オーナーまで、幅広いお客様の相続・資産承継をサポートしてまいりました。 相続は、ご家族ごとに抱える事情や想いが異なり、同じ案件は一つとしてありません。 そのため私は、税法や制度だけに目を向けるのではなく、お客様一人ひとりのお話を丁寧にお伺いし、ご家族にとって最適な選択肢をご提案することを何より大切にしています。 相続税申告はもちろん、財産評価、遺産分割、生前対策、遺言書の作成、資産承継など、それぞれのご家庭の状況に応じたきめ細やかなサポートを心掛けています。 また、相続手続が完了した後も、ご家族が安心して生活を送れるよう、資産承継後の見守りや財産管理に関するご相談にも継続して対応しております。 相続は、一度きりの手続きではなく、ご家族のこれからの人生につながる大切な節目です。 だからこそ、お客様の不安に寄り添い、一つひとつの疑問を丁寧に解消しながら、安心して未来へ歩んでいただけるよう、誠実にサポートしてまいります。
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