相続税の税務調査|現金・名義預金・生命保険・書面添付を税理士が解説
調査対象・指摘されやすい財産・当日の流れを図解
相続税の税務調査では、申告書に記載された財産だけでなく、被相続人名義の預貯金から引き出された現金、家族名義の預貯金、生命保険、生前贈与なども確認されることがあります。税務署の着眼点と申告時に整理しておきたい資料を、実務に沿って解説します。
相続税の税務調査で特に注意したいのが、預貯金から引き出された現金です。
税務署は死亡日の預金残高だけでなく、相続開始前の入出金を確認し、大口出金や継続的な現金引出しについて、使途と相続開始時点での残存状況を確認します。
さらに、家族名義の預貯金や生命保険についても、名義だけでなく、資金の拠出者、管理状況、贈与の成立、保険料負担者などから実質的な帰属を検討します。
大口出金と使途不明金は重点的な確認事項です。
原資、管理者、贈与の実態が確認されます。
契約名義だけでなく保険料負担者が重要です。
確認内容と判断根拠を申告書に添付します。
すべての相続税申告に実地調査が行われるわけではありません。文書、電話、来署依頼等による確認が行われる場合もあります。
相続税の税務調査とは
相続税の税務調査は、提出された申告書が法令に従って適正に計算されているか、申告すべき財産が漏れなく計上されているかなどを税務署が確認する手続です。
一般的な相続税の実地調査は国税通則法に基づく任意調査ですが、納税者には質問に答え、帳簿書類等の検査に応じる義務があります。日程や準備資料は、税務代理を行う税理士を通じて調整できます。
国税庁が公表した相続税の税務調査状況
国税庁が公表した令和6事務年度の全国計では、相続税の実地調査件数は9,512件、申告漏れ等の非違が認められた件数は7,826件でした。
同資料では、申告漏れ相続財産の金額の構成比について、現金・預貯金等が29.1%を占めています。預貯金は死亡日残高だけでなく、生前の入出金や家族名義口座との資金移動まで確認する必要があります。
※令和6事務年度の数値は、国税庁「令和6事務年度における相続税の調査等の状況」に基づきます。
相続税の調査対象はどのように選ばれるのか
具体的な選定基準がすべて公表されているわけではありません。税務署は、相続税申告書、法定調書、過去の申告内容、金融機関等から得た資料情報などを踏まえ、申告内容を検討します。
- 相続開始前に多額の現金出金がある
- 所得や資産形成の状況に比べて申告預貯金が少ない
- 配偶者、子、孫名義の口座に多額の資金がある
- 被相続人が保険料を負担した家族名義の保険がある
- 相続開始前に多額の贈与や名義変更がある
- 土地について大きな評価減を適用している
- 非上場株式、国外財産、貸付金など把握・評価が難しい財産がある
- 申告義務がある可能性が高いのに申告書が提出されていない
相続税の税務調査で確認されやすい財産・論点
※上記は公的統計上の否認件数ランキングではなく、相続税申告の実務上、重点的に確認したい順序として整理したものです。
最も注意したい「預貯金から引き出された現金」
相続税申告では、死亡日の預金残高だけを確認すれば足りるわけではありません。相続開始前に引き出された現金について、何に使用されたか、誰に渡されたか、死亡日時点で自宅や貸金庫等に残っていなかったかを確認します。
500万円を出金
不動産購入・現金保管
現金として残存か
出金があること自体で直ちに申告漏れとなるわけではありません。使途と残存状況を説明できることが重要です。
特に確認したい出金
- 相続開始直前の多額の現金出金
- 定期的・継続的な高額出金
- 相続人が代理で行った出金
- 入院後や意思能力低下後の出金
- ATM限度額に近い金額を繰り返した取引
- 使途を示す領収書や振込記録がない出金
- 自宅金庫、たんす、貸金庫等に保管していた現金
- 死亡前後に葬儀費用として引き出した現金
名義預金は名義ではなく実質で判断されます
名義預金とは、配偶者、子、孫等の名義であるものの、実質的には被相続人に帰属すると判断される預貯金をいいます。家族名義であるだけで名義預金になるわけではなく、原資、管理、贈与の合意、使用・処分権限等を総合的に検討します。
名義保険・生命保険は保険料負担者を確認します
生命保険の税務上の取扱いは、契約者、被保険者、保険金受取人の名義だけでなく、実際に誰が保険料を負担したかによって変わります。
- 被相続人の死亡により支払われる死亡保険金
- 被相続人が保険料を負担した家族名義の契約
- 死亡日時点で保険事故が発生していない契約
- 契約者貸付金、未収保険金がある契約
- 死亡前に契約者変更や名義変更をした契約
- 一時払保険、年金保険、外貨建保険等
生前贈与は贈与の実態と相続税への加算を確認します
家族へ資金が移動していても、直ちに有効な贈与が成立しているとは限りません。贈与者の贈与意思、受贈者の受諾、財産の移転、管理・処分権限等を確認します。
- 受贈者が贈与の事実を認識していたか
- 贈与契約書をいつ、誰が作成したか
- 受贈者が通帳や印鑑を管理していたか
- 受贈者が贈与財産を自由に使用できたか
- 必要な贈与税申告を行っていたか
- 毎年同額の贈与が繰り返されていないか
- 相続開始前の贈与を相続財産へ加算する必要がないか
- 相続時精算課税の適用財産がないか
税務署はどのような資料を確認するのか
税務署は、相続税申告書のほか、法令に基づいて収集・保有する資料情報、過去の所得税・贈与税申告、法定調書、登記情報等を活用して申告内容を検討します。
実地調査と簡易な接触の違い
| 区分 | 主な方法 | 主な内容 | 対応 |
|---|---|---|---|
| 実地調査 | 自宅、事務所等での面談・資料確認 | 相続人への質問、通帳・印鑑・資料等の確認 | 事前に論点、資料、回答方針を整理 |
| 簡易な接触 | 文書、電話、来署依頼等 | 計算誤り、特定財産、財産漏れ等の照会 | 質問事項と期限を確認し根拠資料を添えて回答 |
| 行政指導 | 自主的な確認・見直しを促す連絡等 | 申告内容の自主的な確認・是正 | 税務調査との区分と加算税への影響を確認 |
相続税の税務調査当日の一般的な流れ
所属、氏名、対象税目、対象期間等を確認します。
職歴、収入、財産形成、生活費、財産管理者等が確認されます。
大口出金、家族名義口座、保険料負担、生前贈与等を資料と照合します。
追加提出資料、回答期限、今後の連絡方法等を確認します。
相続税の税務調査で質問されやすい事項
- 被相続人の職歴と主な収入源
- 毎月の生活費の水準
- 通帳を管理していた人
- 届出印・実印を管理していた人
- キャッシュカードを使用していた人
- 自宅金庫・保管現金の有無
- 貸金庫の利用の有無
- 死亡前の大口出金の使途
- 入院中の出金を行った人
- 葬儀費用の支払資金
- 家族名義口座の有無
- 子や孫への生前贈与
- 贈与契約書の有無
- 贈与後の通帳管理者
- 生命保険料の負担者
- 家族名義の保険契約
- 不動産売却代金の行方
- 非上場株式・会社貸付金
- 国外預金・国外不動産
- 骨董品、貴金属、書画等
税理士法第33条の2の書面添付制度
書面添付制度は、税理士が申告書の作成に際して、どの資料を確認し、どのような事項を計算・整理・審査したか等を所定の書面に記載し、申告書へ添付する制度です。
書面添付がある申告について調査通知を行う場合は、一定の場合を除き、その通知前に税務代理を行う税理士へ意見を述べる機会が与えられます。
↓
調査対象として選定
↓
原則として調査の事前通知
↓
調査対象として選定
↓
原則として通知前に税理士への意見聴取
↓
疑義が解消すれば実地調査に至らない場合もある
相続税申告の書面添付に記載したい事項
- 提示を受けた通帳、残高証明書、取引履歴
- 相続開始前の大口出金の確認内容
- 手元現金の計上額と確認方法
- 家族名義預金の検討内容
- 生命保険契約と保険料負担者の確認
- 生前贈与と相続財産への加算の検討
- 不動産・非上場株式の評価資料と方法
- 債務・葬式費用の確認資料
- 相続人から聴取した事項と申告上の判断
申告漏れが判明した場合の加算税・延滞税
| 区分 | 主な対象 | 概要 |
|---|---|---|
| 過少申告加算税 | 期限内申告の納付税額が過少 | 原則10%、一定額を超える部分は15%。修正時期等により異なります。 |
| 無申告加算税 | 期限までに申告書を提出していない | 申告時期、税額、過去の無申告歴等により異なります。 |
| 重加算税 | 隠蔽・仮装がある場合 | 過少申告の場合は原則35%、無申告の場合は原則40%。 |
| 延滞税 | 法定納期限後に納付 | 納付日と各年の割合に応じて計算します。 |
※税率は追加税額、修正申告の時期、調査通知、過去の申告状況等により異なります。個別案件は国税通則法等に基づいて計算します。
税務調査を見据えて相続税申告時に行うこと
- すべての金融機関・支店・口座を確認したか
- 相続開始前の預貯金取引履歴を確認したか
- 大口出金の使途と残存状況を確認したか
- 死亡日時点の手元現金を計上したか
- 貸金庫の有無と保管物を確認したか
- 家族名義預金の原資と管理者を確認したか
- 家族名義保険と保険料負担者を確認したか
- 贈与税申告書、生前贈与加算、相続時精算課税を確認したか
- 不動産の現況、地積、権利関係を確認したか
- 非上場株式、貸付金、国外財産を確認したか
- 申告上の判断根拠を資料として保存したか
当事務所が相続税申告で確認する主な事項
税務署から税務調査の連絡が来た場合
その場で詳細な回答や日程確定をする必要はありません。税務署名、部署、担当者名、連絡先、手続の区分、対象税目、準備資料等を記録し、申告を担当した税理士へ連絡してください。
- 税務署名、部署、担当者名、電話番号
- 税務調査、行政指導、照会のいずれか
- 対象となる税目と期間
- 希望日時と場所
- 準備を求められた資料
- 申告書、評価資料、預金調査資料の保管状況
調査前に行う準備
- 申告書と添付資料を確認する
- 税務署が確認する可能性がある論点を抽出する
- 大口出金と家族間資金移動を再確認する
- 名義預金・名義保険・生前贈与を再検討する
- 不足資料を収集し、事実関係を時系列で整理する
- 相続人と税理士で回答方針を確認する
相続税の税務調査についてよくある質問
相続税申告をすると必ず税務調査が来ますか?
必ず来るわけではありません。申告書や資料情報等を検討し、確認の必要性がある事案について実地調査や簡易な接触等が行われます。
預金から引き出した現金は必ず申告しますか?
出金額をそのまま申告するのではありません。使用済みの部分と死亡日時点で現金として残っていた部分を整理し、死亡日時点で被相続人に帰属する現金を申告します。
領収書がない出金はすべて相続財産になりますか?
領収書がないだけで直ちに全額が相続財産になるとは限りません。通帳、請求書、契約書、生活状況、家族の説明等から使途と残存状況を整理します。
配偶者名義の預金も確認されますか?
被相続人の資金が移動している場合等は、原資、管理者、贈与の事実が確認されることがあります。配偶者固有の収入等で形成された場合は根拠資料を整理します。
子や孫名義の預金はすべて名義預金ですか?
すべてが名義預金ではありません。原資、贈与の合意、管理、名義人の認識、使用・処分権限等から実質的な帰属を判断します。
贈与契約書があれば名義預金ではありませんか?
贈与契約書は重要ですが、それだけで決まりません。受贈者へ財産が移転し、管理・処分できる状態だったかも確認します。
家族名義の生命保険も相続税に関係しますか?
関係することがあります。契約者名義だけでなく、保険料負担者、保険事故、契約上の権利を確認します。
税務調査には税理士が立ち会えますか?
税務代理権限証書を提出した税理士は、税務調査に立ち会い、質問内容の確認、資料説明、税務上の意見説明等を行えます。
書面添付をすれば税務調査は来ませんか?
税務調査の省略を保証する制度ではありません。意見聴取で疑義が解消し、結果として実地調査に至らないことがあります。
申告漏れがあれば必ず重加算税になりますか?
必ずではありません。重加算税は、課税標準等の計算の基礎となる事実について隠蔽・仮装があった場合に問題となります。
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主な根拠法令・公的資料
- 国税通則法第65条(過少申告加算税)
- 国税通則法第66条(無申告加算税)
- 国税通則法第68条(重加算税)
- 国税通則法第74条の2以下(質問検査権等)
- 国税通則法第74条の9(事前通知等)
- 税理士法第33条の2(計算事項等記載書面)
- 税理士法第35条(意見の聴取)
- 国税庁「令和6事務年度における相続税の調査等の状況」
- 国税庁「書面添付・意見聴取制度」
本ページは相続税の税務調査に関する一般的な取扱いを説明するものです。財産の帰属、名義預金、生命保険、生前贈与、加算税等の取扱いは、個別の事実関係、証拠資料、申告・修正時期等により異なります。個別案件は税理士等の専門家へご確認ください。

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