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遺言と遺留分|侵害額請求を見据えた分け方

遺留分が気になる遺言では、最初に3つだけ確認します。
誰が請求できる? いくら不足しそう? 請求されたら何で払う?

30秒で結論

遺留分を侵害する遺言=無効、ではありません

現行制度では、遺留分を侵害する遺言も直ちに無効になるわけではありません。ただし遺留分権利者から請求されると、原則として侵害額に相当する金銭を支払う問題になります。

1

誰にある?

兄弟姉妹以外の一定の相続人。

2

いくら?

財産・贈与・債務等を確認して計算。

3

何で払う?

現金、保険等の資金設計まで確認。

遺言設計のポイント:「遺留分を侵害しないよう機械的に均等化する」だけが答えではありません。特定の財産を一人へ集中させる合理性があるなら、侵害の可能性と支払原資を見える化した上で設計します。
01

まず、誰に遺留分があるのか

相続人遺留分基本的な考え方
配偶者あり他の相続人との組合せに応じて個別割合を計算
子・代襲相続人あり法定相続分を基礎に個別遺留分を計算
直系尊属あり直系尊属のみが相続人なら総体的遺留分は3分の1
兄弟姉妹・甥姪なし兄弟姉妹には遺留分なし
兄弟姉妹に遺留分がないことは、遺言が特に有効な場面の一つです。子のいない夫婦などでは、遺言の有無で結果が大きく変わることがあります。
02

「遺産額 × 割合」だけでは計算できません

遺留分の算定では、相続開始時の財産だけを見るのではなく、一定の贈与や債務等も関係します。

相続開始時の財産 + 算入対象となる贈与 − 債務 = 遺留分算定の基礎となる財産

相続人への生前贈与

婚姻・養子縁組のため、または生計の資本として受けた贈与等について、現行民法では一定範囲が算定の対象になります。

相続税の加算期間とは別

民法上の遺留分計算と、相続税上の生前贈与加算は制度も対象期間も同じではありません。両者を混同しないことが重要です。

税務実務で特に注意:「相続税では加算されないから、遺留分にも関係ない」とは限りません。逆も同様です。民法と相続税法を別々に確認します。
03

特定財産を一人へ残すなら、金額ではなく「支払能力」まで見る

例:長男に賃貸不動産と自社株を集中して承継

目的:事業・不動産管理を分散させず長男へ承継。

問題:長女の遺留分を侵害する可能性。

さらに:長男が取得する財産の多くが不動産・株式で、現金が少ない。

設計:遺留分の概算だけでなく、相続税と遺留分を支払う現金を同時に確認。

相続税の納税資金税務上必要となる現金
遺留分の支払原資民事上必要となる可能性のある現金
税理士ならではの視点:「遺留分はいくらか」だけでなく、相続税を払った後に遺留分を払えるのかまで資金繰りを確認します。
04

現金がないから「土地を渡す」は、税金が出ることがあります

現行制度の遺留分侵害額請求は金銭請求が基本です。支払う側が現金に代えて土地等を渡す場合、単純な「遺産の返還」とは扱われません。

国税庁の現行質疑事例:遺留分侵害額の金銭支払に代えて土地を移転した場合、その土地の移転は代物弁済に該当し、支払側に譲渡所得課税が生じるとされています。

支払う側

土地を渡すことで、所得税上の「譲渡」として課税される可能性。

受け取る側

相続財産そのものを取得したのではなく、遺留分侵害額に相当する金銭債権の弁済として土地を取得する整理になります。

小規模宅地等にも影響:国税庁事例では、金銭の代わりに宅地を取得した遺留分権利者は、その宅地を相続・遺贈により取得したものではないため、その宅地について小規模宅地等の特例を適用できないとされています。

不動産がある場合の遺言を詳しく見る →

05

生命保険を支払原資にするなら、税務も契約も確認

死亡保険金を特定の相続人が受け取れる契約にしておくことは、死亡後の現金確保という意味で検討材料になります。ただし、保険は「遺産分割の預金」と同じ扱いではありません。

相続税では

被相続人が保険料を負担していた死亡保険金は、相続税法上のみなし相続財産として課税対象となります。相続人が受取人の場合には一定の非課税限度額があります。

受取後に「分ける」は注意

国税庁は、契約上の受取人である子が保険金を受け取った後、妻へ分けたケースについて、子から妻への贈与になるとしています。

「とりあえず長男を受取人にして、あとで兄弟で分ければよい」は危険です。保険受取人の指定と、誰の遺留分支払原資にするのかを最初から設計します。

※生命保険金が民法上の遺留分算定にどう影響するかは、契約内容・金額・相続人間の事情等を含む法的検討が必要になるため、本ページでは一律に断定しません。

06

遺留分が相続税申告後に確定すると、税務も動きます

遺留分の紛争は、相続税申告期限までに解決しないことがあります。申告後に支払額が確定すると、財産を多く取得していた側と、遺留分の支払いを受ける側の相続税を調整する場面があります。

支払った側

既に申告した相続税額が過大になる場合、相続税法32条等による更正の請求を検討します。

受け取った側

相続税の課税価格が増えるため、期限後申告・修正申告等を検討することがあります。

国税庁の現行事例:遺留分侵害額の支払額が確定したことを知った日の翌日から4か月以内の更正の請求が示されている事例があります。
遺留分問題は、弁護士だけで終わらないことがあります。和解・調停・判決で金額が確定したら、その内容を税理士へ共有し、相続税申告の修正要否を確認します。

TAX CASES

税務リスクを理解するための裁決・国税庁事例

遺留分税務は、2019年の民法改正前後で制度が大きく変わっています。以下は現行制度の国税庁事例と、税務上の評価・申告修正の考え方を知るための旧法時代の裁決を分けて紹介します。

現行法譲渡所得遺留分侵害額の代わりに土地を渡した場合

国税庁質疑事例:遺留分侵害額1,500万円の金銭支払に代えて土地を移転した場合、代物弁済として、支払側に譲渡所得課税が生じると整理されています。

実務ポイント:「現金不足を土地で解決」が、新しい所得税負担を生むことがあります。遺言作成段階で支払原資を準備する理由の一つです。

現行法小規模宅地遺留分の代物弁済で宅地を受け取った場合

国税庁質疑事例:遺留分侵害額の金銭支払に代えて宅地を取得した者は、その宅地を相続・遺贈により取得したわけではないため、その宅地について小規模宅地等の特例を適用できないとされています。

実務ポイント:民事上の解決方法を変えると、相続税特例の適用関係まで変わることがあります。

現行法相続時精算課税精算課税財産に遺留分侵害額が絡んだ場合

国税庁質疑事例:相続時精算課税を使って生前贈与された財産について遺留分侵害額の支払額が確定した場合、既に申告した贈与税の更正の請求や、相続税の課税価格へ算入する財産価額の調整が問題になります。

実務ポイント:「生前贈与済みだから遺言・遺留分と切り離せる」わけではありません。贈与税と相続税をまたいで修正が生じることがあります。

旧法相続税評価平成25年8月29日裁決

旧遺留分減殺請求に基づく価額弁償金について、対象財産が特定され、通常の取引価額を基礎として価額弁償金が決定されている場合、相続税基本通達11の2-10(2)に準じた方法で相続税上の取得財産価額を計算するのが相当と判断されました。

重要:民事上の価額弁償額と、相続税申告にそのまま入れる価額が必ずしも同じとは限らないことを示す裁決です。

旧法相続税評価令和2年8月11日裁決

旧遺留分減殺請求訴訟の和解により支払われた価額弁償金について、相続税の取得財産価額へ算入する金額を、代償財産に関する通達11の2-10のどの方法で計算するかが争われました。

実務ポイント:和解金額だけを見るのではなく、その金額が何を基礎に決まったのか、当事者間の税務上の合意があるのかまで確認が必要です。

旧法所得税平成元年12月26日裁決

旧遺留分減殺請求に基づく価額弁償を遺産の譲渡代金から受領した遺留分権利者について、譲渡所得が生じるとして行われた課税処分が取り消されました。

注意:これは旧法下の物権的効果を前提とする事案です。2019年7月以後の現行制度へそのまま当てはめることはできません。

旧法更正の請求平成15年4月24日裁決

旧遺留分減殺請求が調停・判決等で解決した場合、更正の請求期間の起算点となる「請求があったことを知った日」について、紛争が解決した時を基準とする考え方が示されました。

実務ポイント:遺留分の通知を受けた日だけで税務期限を判断せず、確定・解決時点と相続税法上の期限を個別確認します。

旧法相続税令和6年7月3日裁決

旧法下の遺留分減殺請求訴訟の和解で支払われた「解決金」について、どこまでが遺留分に基づく価額弁償金として相続税の課税価格に入るかが争われた事例です。

実務ポイント:和解書に「解決金」とだけ書かれていても、税務上の性質が自動的に損害賠償金になるわけではありません。支払原因・訴訟経過・和解内容が重要になります。

裁決を読む意味:遺留分税務は、「いくら払ったか」だけではなく、なぜ払ったのか・何を基礎に金額が決まったのか・現金か現物か・いつ確定したのかによって課税関係が変わります。
07

遺留分対策は「財産を減らすこと」ではなく「支払える設計」にする

現預金

最も分かりやすい支払原資。誰へ現金を残すかまで決める。

生命保険

受取人に死亡時の現金を持たせる。ただし契約・課税関係に注意。

不動産の換価

売却可能性、売却後手取り、譲渡所得まで確認。

生前の調整

贈与・資産組替え等を検討。ただし民法と相続税の対象期間を区別。

「遺留分対策=生命保険」「遺留分対策=生前贈与」と一つの手法に寄せません。財産全体と税負担を見て、支払原資を複数の手段で組み合わせます。

TAX ACCOUNTANT’S VIEW

税理士はここを見る|遺留分の「後」に税務事故を起こさない

  • 相続税の納税資金と遺留分支払原資を二重に確認
  • 不動産で支払った場合の譲渡所得
  • 遺留分確定後の相続税の修正申告・更正の請求
  • 小規模宅地等の特例への影響
  • 相続時精算課税財産との関係
  • 生命保険金の相続税・贈与税上の扱い
  • 民法上の贈与算入期間と相続税上の加算期間の違い
  • 和解金・解決金の税務上の性質

遺留分の解決案を決める前に税務確認を入れる。これだけで、土地を渡した後に譲渡所得が出る、保険金を分けたら贈与税が出る、といった二次的な税務リスクを減らせます。

SELF CHECK

遺言を書く前の遺留分セルフチェック

  • 誰に遺留分があるか確認した
  • 相続開始時点を想定した財産一覧を作った
  • 算入対象となり得る生前贈与を確認した
  • 不動産・非上場株式等の価額を一つの数字だけで判断していない
  • 誰の遺留分をどの程度侵害する可能性があるか概算した
  • 侵害してでも特定財産を集中承継させる理由がある
  • 相続税の納税資金を確認した
  • 遺留分の支払原資を確認した
  • 土地等による代物弁済の税務リスクを確認した
  • 生命保険を使う場合、受取人と税務を確認した
  • 相続税申告後に遺留分が確定した場合の税務修正を想定した
  • 実際に紛争化した場合に弁護士へつなぐ体制を考えた

FAQ

遺言と遺留分のよくある質問

Q. 遺留分を侵害した遺言は無効ですか?

直ちに無効になるわけではありません。現行法では、遺留分権利者が請求すると、原則として侵害額に相当する金銭債権が生じます。

Q. 遺言に「遺留分を請求しないでください」と書けば請求できなくなりますか?

その記載だけで遺留分侵害額請求権を消滅させるものではありません。相続開始前の遺留分放棄には家庭裁判所の許可が必要です。付言事項として思いを説明することと、法的な権利制限は分けて考えます。

Q. 現金がなければ、相続した土地を渡せばよいですか?

土地で支払うこと自体を検討する場面はありますが、現行税務では代物弁済として支払側に譲渡所得が生じる可能性があります。税務確認なしで決めることはおすすめしません。

Q. 生命保険で遺留分対策できますか?

死亡後の現金確保という意味で検討材料になります。ただし、保険金の民法上の扱い、相続税上のみなし相続財産、受取人から他人へ分けた場合の贈与税など、複数の論点があります。

Q. 生前贈与をすれば遺留分から外せますか?

一律にはいえません。民法上、一定の贈与は遺留分算定の基礎に含まれます。相続税上の生前贈与加算とは対象・期間が異なるため、両制度を別に確認します。

Q. 遺留分が確定した後、相続税申告を直す必要がありますか?

支払側・受取側で相続税の課税価格が変わる場合があります。更正の請求、修正申告、期限後申告等の要否を確認します。

Q. 遺留分でもめそうな場合、税理士に相談すれば解決できますか?

財産評価・相続税・支払原資等の税務設計は税理士が対応できますが、請求交渉、調停、訴訟等の法律紛争は弁護士の専門領域です。必要に応じて役割を分けて対応します。

OUR VIEW

遺留分を「避ける」のではなく、「起きても実行できる」遺言へ

遺留分があるから、すべてを法定相続分どおりに分ける。それでは、事業・不動産・自宅など本来まとめて承継した方がよい財産まで分散することがあります。

法務

誰に遺留分があり、侵害の可能性がどの程度あるか。

税務

相続税、現物支払の譲渡所得、申告修正まで確認。

資金

相続税と遺留分を支払った後も承継財産を維持できるか。

当事務所が目指すのは「遺留分ゼロの遺言」ではありません。本人の希望をできるだけ実現しながら、遺留分・税金・現金不足まで予測して、死亡後に実行できる財産承継を設計することです。

CONSULTATION

「この分け方だと遺留分が心配」という段階からご相談いただけます

遺留分の紛争が起きてからではなく、遺言を作る前に、財産評価・相続税・支払原資を確認することに意味があります。当事務所では、必要に応じて弁護士等と役割を分けながら、税務・財産・不動産の側から遺言設計を整理します。

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この記事を担当した執筆者
佐々木税務会計事務所 共同代表 佐々木謙
保有資格
専門分野相続・贈与・不動産・法人経営
経歴経営コンサルティング会社において約10年間、企業経営や事業承継に関するコンサルティング業務に従事。その後、法律事務所にて約5年間、相続・資産承継に関する実務を経験し、大手税理士法人では約10年間にわたり、相続税申告、財産評価、事業承継、生前対策など資産税業務を専門に担当しました。 これまで培ってきた税務・法務・経営コンサルティングの知見を活かし、一般のご家庭から地主・企業オーナーまで、幅広いお客様の相続・資産承継をサポートしています。 現在は佐々木税務会計事務所の共同代表として、「創族(そうぞく)」を理念に掲げ、相続税申告にとどまらず、生前対策、遺言書作成、家族信託、事業承継など、ご家族の未来を見据えた総合的な相続サポートに取り組んでいます。 相続は税金だけの問題ではなく、ご家族の人生に関わる大切な節目です。税務・法務・経営、それぞれの視点から最適な解決策をご提案し、お客様が安心して未来へ歩んでいただけるよう、分かりやすく実践的な情報発信にも力を入れています。
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