公正証書遺言|作り方・費用・必要書類・注意点を解説
「予約して当日に作る書類」ではありません
財産と家族を整理し、内容を決め、公証人と事前調整をしたうえで、最後に遺言者本人の意思を確認して完成します。
内容を決める誰に・何を・なぜ残すか
公証人と事前調整資料提出・原案作成・確認修正
作成日当日本人+公証人+証人2名
30秒で結論
公正証書遺言の強みは「形式の確実性」。でも、財産の分け方は別に考えます
ただし、公正証書という「形式」を選べば、誰に何を残すかまで自動的に最適になるわけではありません。不動産、相続税、遺留分、納税資金、二次相続などは、作成前に別途検討する必要があります。
「公正証書にするか」より先に、「何を誰に残すか」を確認します
公証人は、公正証書を適法・確実に作成する専門家です。一方、相続税、不動産評価、納税資金、二次相続まで含めた財産配分が自動的に最適化されるわけではありません。
- 相続税評価額と実際の売却価値に大きな差がないか
- 不動産を取得する相続人に納税資金が残るか
- 配偶者の税額軽減だけで一次相続を決めていないか
- 二次相続まで含めた家族全体の税負担はどうなるか
- 遺留分侵害額を支払う現金を確保できるか
公正証書遺言とは?
公正証書遺言は、遺言者本人が、公証人と証人2名の前で遺言内容を伝え、公証人がそれが本人の真意であることを確認し、遺言公正証書として作成する方式です。
作成時には、遺言者本人に内容を読み聞かせ、または閲覧させ、内容に間違いがないことを確認します。
主なメリット
- 法律実務に精通した公証人が関与する
- 方式不備による無効リスクを抑えやすい
- 家庭裁判所の検認が不要
- 原本が公証制度の下で保管される
- 自書が難しい方でも利用できる場合がある
- 病院・自宅・施設への公証人出張も可能
主な注意点
- 証人2名が必要
- 公証人手数料がかかる
- 資料収集と事前調整が必要
- 作成日まで時間を要する場合がある
- 本人の意思・遺言能力の確認が必要
- 公正証書でも内容設計が不適切なら別の問題が残る
実際の流れ|最初の連絡から完成まで6STEP
「予約日=完成日」と考えない
公証役場への最初の連絡後、資料確認、公証人による原案作成、本人側の確認・修正、証人・本人との日程調整を経て作成日を迎えます。健康状態に不安がある場合ほど、早めの着手が重要です。
公証役場へ最初に何を伝える? 完成した法律文書は不要です
最初から自分で完成版の遺言文案を書き上げる必要はありません。日本公証人連合会も、どの財産を誰に相続・遺贈させたいかなどを整理したメモと必要資料を基に、公証人が遺言公正証書案を作成する流れを案内しています。
最初に整理しておくとよいこと
- 遺言者の家族関係・推定相続人
- 誰に財産を残したいか
- 自宅・土地・収益不動産を誰に残すか
- 預貯金・証券をどう分けるか
- 相続人以外への遺贈があるか
- 遺言執行者を誰にするか
- 第1取得者が先に亡くなった場合の第2指定
- 付言事項で伝えたいこと
財産目録は「遺言を書くため」だけでなく「税負担を読むため」に使います
特に不動産が多い方では、固定資産税評価額、相続税評価額、実勢価格は一致しません。金額だけを見て「同じくらいに分けた」つもりでも、経済価値や将来の換金性、相続税負担には差が出ることがあります。
主な必要書類|早めに集めると作成がスムーズです
| 資料 | 主な目的 |
|---|---|
| 本人確認資料 | 印鑑登録証明書、または運転免許証・マイナンバーカード等の顔写真付き身分証明書など |
| 戸籍謄本・除籍謄本等 | 遺言者と相続人との続柄確認 |
| 受遺者の住所資料 | 相続人以外へ遺贈する場合 |
| 不動産登記事項証明書 | 土地・建物の特定 |
| 固定資産評価証明書等 | 不動産価額・手数料算定等 |
| 預貯金通帳・コピー等 | 口座の特定 |
| 証人予定者の情報 | 氏名・住所・生年月日等 |
| 遺言執行者の資料 | 相続人・受遺者以外を指定する場合等 |
公証人が原案を作成 → 本人が確認 → 修正して確定
提出したメモ・資料に基づき、公証人が遺言公正証書の案を作成します。案はメール等で提示され、本人側で内容を確認し、修正したい点があれば公証人と調整します。
公正証書遺言は何日かかる?|余裕を持って始める
必要日数を一律に「○日」と決めることはできません。公証役場の混雑状況、財産・家族関係の複雑さ、資料の揃い方、原案の修正回数、証人・本人との日程調整によって変わります。
早く進むケース
財産・相続関係が単純で、必要資料が揃い、遺言内容も固まっている。
時間がかかるケース
不動産が多い、受遺者が多い、内容変更が多い、予備的指定等が複雑。
予約も考慮
公証役場によっては完全予約制で、作成日時の確保に時間を要することがあります。
作成日当日|最終的に確認されるのは「本人の意思」です
当日は、遺言者本人が証人2名の前で、公証人に遺言内容を改めて伝えます。公証人は、それが本人の真意であること、遺言内容を理解していることなどを確認します。
REAL CASES
公証役場の現場で実際に起こる「つまずき」
公正証書遺言は確実性の高い方式ですが、作成日当日に初めて問題が分かることもあります。
当事務所でも、ご家族と公証役場との間で内容調整を進めた後、作成当日に遺言者本人が公証人から内容を確認された際、「詳しいことは息子に任せています」という趣旨の回答をし、その場ですぐ作成できなかったケースがあります。
改めて遺言内容を本人と一つずつ確認し、本人自身が財産の承継内容を理解・納得したうえで、再度公証人の確認を受け、最終的に作成に至りました。
公証人に病院へ出張してもらっても、本人のその日の体調・意識状態等によっては、十分な意思確認ができず作成を見送ることがあります。別の日に状態が安定したところで改めて確認し、作成できた例もあります。
認知機能や意識状態は、病状・体調・時間帯等によって変動することがあります。だからこそ、可能な限り早い段階から準備することが重要です。
裁判例でも、認知症の診断があっても、遺言内容が比較的単純で、その内容と法律効果を理解できていたとして遺言能力が認められた例があります。
一方で、認知機能の低下が進み、多数の不動産・金融資産・債務を複雑に配分する遺言について、本人が十分理解できていなかったとして、公正証書遺言でも遺言能力が否定された裁判例があります。
東京地裁令和6年5月27日判決の解説・事件番号等
当日に「丸暗記」は不要。でも、自分の遺言として説明できることが大切
事前に本人と確認したいこと
- 誰に主な財産を残すのか
- 自宅・土地等を誰に残すのか
- なぜその分け方にしたいのか
- 遺言執行者は誰か
- 原案が自分の希望と一致しているか
避けたい状態
- 本人が遺言案を初めて見るのが作成当日
- 「子どもに任せている」だけで内容を知らない
- 財産の大まかな内容も把握していない
- 本人の意思より家族の希望が先行している
日本公証人連合会|公正証書遺言の当日の手続
証人2名|誰でもなれるわけではありません
公正証書遺言では証人2名が必要です。遺言者自身で手配することもできますし、適当な証人がいない場合は公証役場へ相談することもできます。
証人になれない主な人
- 未成年者
- 推定相続人
- 受遺者
- 推定相続人・受遺者の配偶者
- 推定相続人・受遺者の直系血族等
費用はいくら?|公証役場ごとの自由料金ではありません
公正証書遺言の作成手数料は、政府が定める公証人手数料令に基づいて計算されます。したがって、公証役場が自由に基本料金を決めているわけではありません。
2025年10月1日以後の現行手数料では、財産を受け取る相続人・受遺者ごとに、その人が取得する財産価額に応じて手数料を計算し、その合計額を基礎とします。
| 目的の価額 | 基本手数料 |
|---|---|
| 50万円以下 | 3,000円 |
| 50万円超~100万円以下 | 5,000円 |
| 100万円超~200万円以下 | 7,000円 |
| 200万円超~500万円以下 | 13,000円 |
| 500万円超~1,000万円以下 | 20,000円 |
| 1,000万円超~3,000万円以下 | 26,000円 |
| 3,000万円超~5,000万円以下 | 33,000円 |
| 5,000万円超~1億円以下 | 49,000円 |
具体例|同じ1億円でも、誰に分けるかで費用が変わります
| 遺言内容 | 手数料の考え方 | 例 |
|---|---|---|
| 1億円を妻1人へ | 妻1人について計算+遺言加算 | 49,000円+13,000円=62,000円 |
| 妻6,000万円+長男4,000万円 | 妻分+長男分+遺言加算 | 49,000円+33,000円+13,000円=95,000円 |
公証人手数料の差より、遺言内容による相続税・納税資金の差を重視します
数万円単位の公証人手数料だけを理由に財産の分け方を変えるのは本末転倒です。資産規模が大きい場合、誰がどの財産を取得するかによる相続税、二次相続、売却可能性、納税資金への影響の方がはるかに大きくなることがあります。
正本・謄本等の交付費用
現在、従来の正本・謄本に相当するものを電子データで交付する場合は1通2,500円、書面で交付する場合は1枚300円です。
公証役場へ行けない場合|病院・自宅・施設への出張
高齢・病気等で公証役場へ行くことが難しい場合、公証人が病院、自宅、老人ホーム、介護施設等へ出張して公正証書遺言を作成することができます。
出張でもできること
- 病院での作成
- 自宅での作成
- 老人ホーム・介護施設での作成
- 身体的に署名が困難な場合の対応を検討
追加費用
- 基本手数料が50%加算される場合
- 日当:1日20,000円
- 4時間以内の日当:10,000円
- 交通費実費
2025年10月から公正証書作成手続がデジタル化
2025年10月1日から、公正証書の作成手続がデジタル化されました。原則としてPDF形式の電磁的記録で公正証書が作成され、列席者の電子サイン等を用いる仕組みに変わっています。
一定の要件を満たし、公証人が相当と認める場合には、Web会議を利用して公正証書を作成できる仕組みも導入されています。
法務省|公正証書の作成に係る一連の手続のデジタル化について
TAX ACCOUNTANT’S VIEW
税理士ならここを見る|公証人へ案を出す「前」に確認したいこと
- 不動産を共有にしないか
- 市場価値と相続税評価額の差
- 遺留分侵害額はいくらか
- 予備的遺言を入れるか
- 遺言執行者を誰にするか
- 一次相続の相続税
- 配偶者の税額軽減
- 小規模宅地等の適用可能性
- 相続税の納税資金
- 二次相続までの総負担
公証人は公正証書を適法に作成する専門家です。一方で、資産家・不動産所有者では、遺言案を公証人へ提出する前に「その分け方で税金と納税資金まで大丈夫か」を確認することが重要です。
専門家の役割|一人ですべてを担う必要はありません
| 専門家 | 中心的な役割 |
|---|---|
| 公証人 | 本人の真意を確認し、公正証書として遺言を作成 |
| 税理士 | 財産評価、相続税、納税資金、二次相続等を確認 |
| 司法書士 | 不動産登記その他の登記実務等 |
| 弁護士 | 紛争可能性、遺留分、法的対立がある案件等 |
SELF CHECK
公正証書遺言を作る前のチェック
- 推定相続人を確認した
- 不動産・預金・株式等を一覧にした
- 誰に何を残すか決めた
- 本人自身がその内容を理解している
- 遺留分を確認した
- 遺言執行者を検討した
- 相続税の概算を確認した
- 納税資金を確認した
- 二次相続を確認した
- 必要書類を準備した
- 証人2名をどうするか確認した
- 健康状態に不安がある場合は早めに予約した
FAQ
公正証書遺言のよくある質問
Q. 公証役場へ行けば、その日に公正証書遺言を作れますか?
通常は事前に資料・希望内容を提出し、公証人が原案を作成し、本人側で確認・修正した後に作成日を決めます。内容が単純で資料が揃っていれば短期間で進むこともありますが、当日飛び込みで完成するものとは考えない方がよいでしょう。
Q. 公正証書遺言はどこの公証役場でも相談できますか?
遺言の相談は公証役場で行うことができます。実際の作成場所や、公証人が出張する場合の職務区域等については、依頼する公証役場へ確認します。
Q. 家族が遺言内容を公証人へ説明してもよいですか?
事前準備や資料提出を家族・専門家が支援することはできます。しかし、遺言そのものは本人の意思でなければならず、作成当日は公証人が本人の真意を確認します。
Q. 「息子に全部任せています」と言ったら作れませんか?
その一言だけで必ず作れないという意味ではありませんが、本人自身が遺言内容を理解・判断していることを確認できなければ、作成できないことがあります。事前に本人と内容を十分確認しておくことが重要です。
Q. 認知症の診断があれば公正証書遺言は作れませんか?
診断名だけで一律には決まりません。遺言時点で、その遺言内容と法律効果を理解して判断できる遺言能力があるかを個別に確認します。遺言内容の複雑さも判断要素になり得ます。
Q. 公正証書遺言なら後で無効になりませんか?
方式面の安全性は高いですが、遺言能力がなかった場合などには、公正証書遺言でも後日その有効性が争われる可能性があります。
Q. 証人を用意できません。
公証役場へ相談して証人を紹介してもらうことが可能です。紹介に伴う費用等は依頼先へ確認します。
Q. 病院に公証人を呼べますか?
可能です。病院・自宅・施設等への出張制度があります。ただし日当・交通費・手数料加算等が生じる場合があります。
Q. 公正証書遺言の原本は法務局で保管されますか?
いいえ。公正証書遺言は法務局の自筆証書遺言書保管制度とは別制度です。公正証書の原本は公証制度の下で保管され、2025年10月以後は原則として電磁的記録で作成される仕組みとなっています。
Q. 公証人手数料は公証役場によって違いますか?
基本となる公証人手数料は公証人手数料令で法定されています。ただし、財産額、取得者数、証書の内容、出張、交付方法等によって最終額は変わります。
Q. 公正証書遺言を作れば相続税も最適になりますか?
いいえ。公正証書は遺言の方式です。誰がどの財産を取得するかによって、配偶者の税額軽減、小規模宅地等、二次相続、納税資金等が変わるため、税務は別途確認します。
SOURCES
このページの主な根拠・参考資料
制度・費用・手続については、可能な限り公的機関・公証実務の一次資料を優先して確認しています。裁判例は、公開情報から事件番号・判決日・事案を確認できるものを、本文の論点に必要な範囲で紹介しています。
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当事務所の考え方|「公正証書を作ること」をゴールにしない
公正証書遺言は、形式面の確実性に優れた有力な遺言方式です。しかし、資産承継の本当の目的は「公正証書を完成させること」ではありません。
誰に
本人の意思と家族事情を整理する。
何を
不動産・預金・自社株を適切に配分する。
どう残す
税金・納税資金・二次相続まで考える。
CONSULTATION
公証役場へ連絡する前の段階から整理できます
財産・家族関係を整理し、相続税、不動産、遺留分、納税資金、二次相続を確認したうえで、公証人へ提出する遺言内容を検討します。必要に応じて司法書士・弁護士等とも役割分担し、公正証書遺言の完成までつなげます。
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