付言事項とは|家族への想いをどう残す?
遺言には、「誰に何を残すか」だけでなく、
「なぜそのように残したのか」を書くことができます。
その想いを伝える部分が「付言事項」です。
30秒で結論
付言事項は「命令」ではなく、遺言の理由を家族へ伝えるメッセージです
誰に何を相続させるか、遺贈、遺言執行者の指定など、法律が効力を認める事項。
感謝、財産の分け方の理由、家族への願いなど。原則として法的拘束力はありません。
付言事項とは? 法的効力のある部分と分けて考える
遺言書に書けば、すべての内容に法的拘束力が生じるわけではありません。財産の処分、相続分や遺産分割方法の指定、遺言執行者の指定など、法律が遺言による効力を認める事項と、それ以外のメッセージは区別して考える必要があります。
| 内容 | 位置付け | 例 |
|---|---|---|
| 財産の承継 | 法的効力を持つ遺言事項 | 自宅を妻に相続させる |
| 遺言執行者 | 法的効力を持つ遺言事項 | Aを遺言執行者に指定する |
| 分け方の理由 | 付言事項 | 妻の今後の生活を考えて自宅と預金を多く残した |
| 感謝・願い | 付言事項 | これまで支えてくれた家族への感謝 |
| 葬儀・納骨の希望 | 通常は付言事項 | 家族だけで静かに送ってほしい |
一番価値があるのは「なぜ、この分け方にしたのか」
付言事項で特に意味があるのは、単なる感謝の言葉だけではありません。遺言の財産配分だけを見ても分からない背景を残すことです。
書くと役立ちやすい5つの内容
1. 感謝
配偶者、子、家族へこれまでの感謝を伝える。
2. 分け方の理由
なぜ法定相続分と違うのか、なぜ特定財産をその人へ残すのか。
3. 配慮した事情
住居、介護、障害、事業、既往の援助など。
4. 家族への願い
遺言の趣旨を理解し、互いを尊重してほしいという希望。
5. 死後の希望
葬儀・納骨等。ただし強制力がないことを理解する。
付言事項で遺留分を止めることはできません
「この遺言に従い、遺留分を請求しないでほしい」と書くこと自体はできます。しかし、その付言だけで遺留分侵害額請求権を失わせることはできません。
「長男には財産を残さない。遺留分も絶対に請求してはならない。」
→ 付言事項だけで法的権利を封じることはできません。さらに、強い非難や命令口調は感情的対立を深める可能性があります。
「妻の今後の住居と生活を守るため、自宅と一定の預金を妻に残すことにしました。子どもたちにもそれぞれ感謝しています。このような事情を理解してもらえればと思います。」
→ 理由を説明しつつ、遺留分そのものへの対策は別途、財産配分・生命保険・支払原資等で検討します。
「お願い」と「実現させたいこと」を混ぜない
付言事項の限界が最も分かりやすいのが、葬儀・納骨・ペット・住居明渡しなどです。
希望として伝える
- 葬儀は家族だけで行ってほしい
- このお墓へ納骨してほしい
- ペットを大切にしてほしい
→ 付言事項として想いを伝えることはできます。
確実な実行を求める
- 葬儀・納骨を具体的に実施してもらう
- 住居の明渡し・契約解約をしてもらう
- 死後の各種事務を特定の人へ任せる
→ 死後事務委任契約等、目的に合った仕組みを別途検討します。
逆効果になる付言事項|書かない方がよいこと
特定の家族を責める
「親不孝だった」「何もしてくれなかった」など、死亡後に反論できない非難は争いの火種になり得ます。
兄弟を比較する
「長女だけが私を大切にした」など、誰かを持ち上げるために他の人を傷つけない。
権利を一方的に禁止する
「遺留分を請求するな」など、付言だけで法律上の権利を消すことはできません。
曖昧な財産処分を書く
付言欄で新たな財産の承継先を曖昧に書くと、法的効力のある本文との関係が不明確になります。
IMPORTANT POINT
「付言には法的効力がない」=法律上まったく意味がない、とは言い切れません
付言事項そのものに、相続人へ一定の行為を強制する法的拘束力は原則ありません。
一方、裁判実務では遺言書全体の文言や作成経緯などから遺言者の真意を探ることがあります。実際の裁判例でも、公正証書遺言の「付言事項」に、なぜ特定の人へ財産を遺贈したのかという理由や、予備的な承継に関する説明が記載され、それを含む遺言書全体が事実関係として検討されています。
TAX ACCOUNTANT’S VIEW
税理士ならここを見る|「税金のためにこの分け方にした」を付言だけで終わらせない
- 配偶者の生活を守りたいという理由
- 収益不動産を管理できる子へ残す理由
- 事業を承継する子へ特定財産を集中する理由
- 他の相続人にも十分配慮したこと
- 一次・二次相続の税額
- 配偶者の税額軽減
- 小規模宅地等の適用要件
- 相続税・遺留分の支払原資
- 不動産の共有・売却・承継方法
付言事項は税務対策ではありません。税務・不動産・遺留分を実際の遺言本文で設計したうえで、「なぜこの設計にしたのか」を家族へ伝えるために使います。
付言事項の実例集|良い例・注意例・NG例を目的別に見る
付言事項は、一般的な「きれいな文章」を選ぶより、何を伝えたいのかによって書き分ける方が実務的です。ここでは、弁護士・司法書士・行政書士等の実務例を比較したうえで、当事務所の考え方として「使いやすい例」「慎重にしたい例」「避けたい例」に分けて整理します。
分類A|財産の分け方に差をつけた理由を伝える
「これまで長い間、家族を支えてくれた妻に心から感謝しています。妻には、私が亡くなった後も現在の自宅で安心して生活してほしいと考え、自宅と今後の生活に必要な預金を多く残すことにしました。子どもたちにもそれぞれ感謝しています。私がこのように考えた事情を理解し、これからも家族で支え合ってもらえれば嬉しく思います。」
→ 配偶者を優遇する「理由」が生活保障であることを説明し、子への感謝も残しています。
「長女には、私の通院や日々の生活について長い間支えてもらいました。その負担と感謝を考え、今回の遺言では長女へ少し多く財産を残すことにしました。他の子どもたちへの愛情に違いがあるわけではありません。それぞれが私を支えてくれたことに感謝しています。私の考えを受け止めてもらえればと思います。」
→ 「介護したから当然」という書き方ではなく、感謝と事情を説明しています。
「次男には今後の生活について継続的な支援が必要になると考え、他の兄弟より多く財産を残すことにしました。これは子どもたちへの愛情の違いによるものではなく、将来の生活を考えた結果です。兄弟それぞれの事情を理解し、可能な範囲で支え合ってもらえることを願っています。」
→ 「能力がないから」など人格評価を避け、将来の生活保障という客観的理由に置き換えています。
「長女だけが私を大切にしてくれたので、長女に多く残します。長男と次男は何もしてくれなかったので仕方ありません。」
→ 他の相続人への非難を死後に残すため、感情的対立を強めるおそれがあります。
分類B|不動産・事業・自社株を一人へ集中させる理由を伝える
「この賃貸不動産は、長男が長年管理に関わり、入居者への対応や修繕についても中心となって行ってきました。今後も一体として管理してもらうことが家族全体にとって良いと考え、長男に相続させることにしました。他の子どもたちを軽んじる意図ではありません。財産全体のバランスも考えたうえで決めたことを理解してもらえればと思います。」
→ 不動産を一人へ集中させる合理性を「管理の継続性」で説明。
「会社の株式と事業に関係する財産については、事業を引き継ぐ長男にまとめて承継させることにしました。会社を分断せず、従業員や取引先との関係を守るために必要だと考えたからです。次男、長女にもそれぞれ十分配慮したつもりです。私の考えを理解し、今後も兄弟で支え合ってもらえることを願っています。」
→ 事業承継という客観的目的を説明し、「後継者だから偉い」という比較にしない。
「自宅については、長年一緒に暮らし、今後もこの家に住み続けたいと考えている次女に相続させます。この家を分けて共有にするより、一人が責任を持って維持する方がよいと考えました。他の子どもたちには別の財産を残すことで、できるだけ全体のバランスを考えています。」
→ 「同居していたから」だけでなく、共有回避と他財産とのバランスまで理由化。
「自宅は長男に相続させます。ただし本当は兄弟3人のものだと思って、みんなで自由に使ってください。」
→ 所有権の帰属を定めた本文と付言の趣旨がぶつかり、遺言解釈を不必要に複雑にするおそれがあります。
分類C|生前贈与・援助の差がある場合
「長男には生前、住宅取得の際にまとまった資金援助をしました。そのことも踏まえ、今回の遺言では長女と次男に相対的に多く財産を残すことにしました。これまでの援助と今回の遺言を合わせて、できるだけ家族全体のバランスを考えた結果です。」
→ 過去の援助を責めるのではなく、「全体調整の事情」として説明。
「長男にはこれまで3,000万円以上渡しているので、相続は一切なくて当然です。」
→ 金額の認識違いや資料不足があると、かえって争点になります。具体額を書くなら記録・証拠との整合性を確認します。
分類D|家族への感謝・関係維持を伝える
「家族のみんなには、長い人生を一緒に歩んでもらい、本当に感謝しています。私がここまで穏やかに暮らしてこられたのは、みんなのおかげです。財産のことで心を痛めることなく、それぞれが自分の人生を大切にして過ごしてください。」
→ 誰か一人だけを特別扱いせず、付言らしい穏やかなメッセージ。
「財産の分け方については、私なりに皆の生活やこれまでの経緯を考えて決めました。それぞれ思うところがあるかもしれませんが、この遺言が兄弟の関係を壊す原因にはなってほしくありません。これからも互いを尊重して付き合ってもらえることを願っています。」
→ 「絶対に仲良くしろ」と命令せず、願いとして表現。
「長男にはこれまで散々裏切られました。私の葬儀にも来てほしくありません。」
→ 付言事項は「最後の反論文」ではありません。家族関係をさらに悪化させる可能性があります。
「次女は本当に良い娘でした。それに比べて長女は自分のことしか考えていませんでした。」
→ 良い評価を伝えるために他の相続人を傷つける文章は避けます。
分類E|遺留分が気になる場合
「今回の遺言では、妻の今後の生活を守るため、妻に多く財産を残すことにしました。子どもたちにも十分な配慮をしたつもりですが、結果として取得額に差が生じています。私が家族の生活を考えて決めたことであることを理解してもらえればと思います。」
→ 権利放棄を求めず、理由説明に徹する。
「この遺言に不満があっても、絶対に遺留分を請求してはならない。請求した者には何も渡さない。」
→ 付言だけで遺留分侵害額請求権を消すことはできません。付言と法的対策を混同しています。
「もし遺留分を請求する者がいたら、私の最後の願いを踏みにじることになります。」
→ 法的な強制力はなく、相続人へ強い心理的圧力をかけるため、かえって反発を招くことがあります。
分類F|葬儀・納骨・供養の希望
「葬儀については、できれば家族だけで静かに送ってもらえれば十分です。華美な葬儀は望んでいません。残された家族に大きな負担をかけないことが私の希望です。」
→ 「希望」として穏やかに記載。法的拘束力はないため、確実な実現には別の準備が必要。
「私の遺骨については、可能であれば○○霊園の家族墓に納骨してもらいたいと思っています。家族の事情で難しい場合には、皆で無理のない方法を選んでください。」
→ 希望を明確にしながら、家族へ過度な負担を強制しない。
「私の葬儀は必ず○○寺で行い、○○家の墓に納骨しなければならない。」
→ 付言事項だけでは通常、葬儀・納骨方法を法的に強制できません。確実な実現には死後事務委任等を検討します。
分類G|ペット・愛用品・デジタル資産など
「私が飼っている犬○○について、可能であれば長女に引き取ってもらい、これまでと同じように大切にしてもらえれば安心です。長女に無理がある場合は、家族で相談して○○が安心して暮らせる方法を選んでください。」
→ 付言で希望を伝える例。ただし確実な飼養・費用負担を求めるなら、負担付遺贈等を含む別設計を検討。
「家族写真や手紙は、皆で相談して必要なものを分けてください。私の机にある古い万年筆だけは、長男が子どもの頃から気に入っていたので、できれば長男に使ってもらえれば嬉しく思います。」
→ 希望として伝える例。高額品など法的な帰属を確定させたいものは本文側で明確にする。
「○○銀行の預金は、できれば長女が受け取ってください。」
→ 財産処分を付言欄だけで曖昧に書くのは避け、法的効力を持たせたい承継は本文で明確にします。
分類H|再婚・家族関係が複雑な場合
「妻には、私が亡くなった後も安心して生活できるよう、自宅と生活資金を残すことにしました。前の結婚で生まれた子どもたちも私にとって大切な家族です。今回の財産配分は、誰かを優劣で比べたものではなく、それぞれの今後の生活を考えた結果です。互いの立場を尊重してもらえればと思います。」
→ 再婚家庭では「誰が大切か」ではなく、生活保障と公平感の理由を説明。
「前妻の子どもたちは今の妻に迷惑をかけないよう、今後一切連絡をしないでください。」
→ 法的拘束力がないだけでなく、死亡後の家族関係を悪化させる可能性があります。
分類I|税務・二次相続を考えて分け方を変えた場合
「妻の生活に必要な自宅と預金は妻に残し、それ以外の一部財産は子どもたちへ残すことにしました。妻の生活を第一に考えながら、将来の相続も含め家族全体の負担が大きくならないよう検討した結果です。」
→ 「節税のため」とだけ書かず、生活保障と家族全体の負担という目的を説明。
「この分け方にすれば相続税が必ず○○万円安くなるので、この通りにしました。」
→ 遺言作成後に財産額・税制・家族構成が変わることがあります。具体税額を断定的に付言へ残すより、設計理由を簡潔に説明します。
分類J|予備的遺言と付言を組み合わせる場合
「長男が私より先に亡くなっていた場合に、この不動産を孫○○に残すことにしたのは、できるだけ長男の家族にこの不動産を引き継いでもらいたいと考えたからです。」
→ 第2取得者そのものは法的効力のある本文で指定し、付言では理由を補う。
「もし長男が先に亡くなっていたら、たぶん孫に渡してもらえればと思います。」
→ 予備的な財産承継を実現したいなら、付言ではなく法的効力を持つ本文で明確に設計します。
NG SUMMARY
付言事項で避けたい8つの書き方
1. 悪口・恨み
親不孝、裏切った、許さない等。
2. 兄弟比較
○○だけが良い子だった等。
3. 権利行使の禁止
遺留分を請求するな等。
4. 罪悪感を与える
請求したら最後の願いを踏みにじる等。
5. 本文との矛盾
所有者を決めた後に「皆のもの」と書く等。
6. 重要財産を曖昧に処分
「できれば○○へ」だけで帰属を決めようとする。
7. 実行を強制できると誤解
葬儀・納骨・介護等を義務として書く。
8. 長すぎる説明・断定
過去の不満、税額、家族評価を長文で固定する。
SELF CHECK
付言事項を書く前のチェック
- 法的効力を持たせる本文と付言事項を分けている
- 財産の分け方の理由を自分の言葉で説明できる
- 特定の相続人への非難になっていない
- 兄弟姉妹を不用意に比較していない
- 遺留分など法律上の権利を付言だけで止めようとしていない
- 葬儀・納骨等を確実に実行したい場合は別制度も検討した
- 不動産・相続税・納税資金の実際の設計は本文側で済ませた
- 「なぜこの分け方か」が読み手に伝わる
- 感謝の言葉が入っている
- 長すぎず、読み手が理解しやすい
- 読んだ家族を傷つける表現がないか見直した
FAQ
付言事項のよくある質問
Q. 付言事項には法的効力がありますか?
家族への感謝、お願い、財産配分の理由などの付言事項には、原則としてそれ自体で相続人を法的に拘束する効力はありません。法的に実現させる必要がある事項は、遺言本文や別の契約・制度で設計します。
Q. 「遺留分を請求しないで」と書けば請求できなくなりますか?
いいえ。付言事項だけで遺留分侵害額請求権を消すことはできません。遺留分を意識する場合は、財産配分や支払原資等を別途設計します。
Q. 葬儀や納骨方法を書けますか?
希望として書くことはできますが、通常は付言事項として法的拘束力を持ちません。確実な実行を求める場合は、死後事務委任契約等も検討します。
Q. 自筆証書遺言にも付言事項を書けますか?
書くことができます。公正証書遺言でも付言事項を入れることがあります。ただし、法的効力を持つ本文との区別が不明確にならないよう注意します。
Q. 長く書いた方が気持ちは伝わりますか?
必ずしもそうではありません。特に財産配分に差がある場合は、感情的な長文より「感謝・理由・願い」を簡潔に整理した方が真意が伝わりやすいことがあります。
Q. 付言事項を書けば相続争いを防げますか?
争いを必ず防げるものではありません。ただし、一見不公平に見える配分について理由が分からない状態より、遺言者自身の考えが説明されている方が家族の理解につながる可能性があります。遺留分や共有など法的な問題は別途解決しておく必要があります。
Q. 税金を安くするための分け方であることを書いてよいですか?
背景の一つとして説明することは考えられます。ただし「節税のため」だけでは家族の納得につながらない場合があります。配偶者の生活、財産管理、納税資金、二次相続など、なぜ家族全体にとってその設計が適切と考えたのかを整理することが重要です。
ROLE SHARING
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財産の分け方だけでなく、「理由」まで残す
遺された家族が見るのは、金額や不動産の名前だけではありません。「なぜ父はこうしたのか」「なぜ母は私ではなく兄にこの土地を残したのか」と、その理由を考えます。
法律
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想い
なぜそうしたのかを家族へ伝える。
CONSULTATION
「誰に何を残すか」と「なぜそうするのか」を一緒に整理します
遺言では、財産配分だけでなく、その理由を家族へどう伝えるかも重要です。当事務所では、相続税・二次相続・不動産・遺留分・納税資金を確認したうえで、遺言の設計と付言事項の役割を分けて整理します。
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