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予備的遺言|指定した人が先に亡くなった場合に備える

遺言は、「誰に残すか」だけでなく、
その人が先に亡くなったら「次に誰へ残すか」
まで決めておくと、死亡順序が変わっても意思をつなぎやすくなります。

30秒で結論

「長男が先に亡くなったら、その子へ自動的に行く」とは限りません

第1希望妻・長男などへ残す
先に死亡予定が崩れる
第2希望誰へ残すかを指定
予備的遺言とは、最初に指定した相続人・受遺者が遺言者より先に亡くなるなど、予定した承継ができなくなった場合に備え、次に誰へ財産を承継させるかをあらかじめ遺言で定めておく考え方です。
01

なぜ予備的遺言が必要なのか

遺言を作った時点では元気だった配偶者や子が、遺言者より先に亡くなることがあります。遺言作成から相続開始まで10年、20年と時間が空けば、家族構成も財産も変わります。

1

配偶者の先死亡

「全財産を妻へ」の妻が先に亡くなる。

2

子の先死亡

「長男に自宅を」の長男が先に亡くなる。

3

第三者の先死亡

相続人ではない親族・知人等への遺贈の受遺者が先に亡くなる。

「その人の子が代わりにもらえるだろう」という思い込みは危険です。遺言による指定と、民法上の代襲相続は同じ仕組みではありません。
02

受遺者が先に亡くなると、遺贈は原則として効力を生じません

民法994条

遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。

さらに民法995条では、遺贈が効力を生じない場合、その財産は原則として相続人に帰属するとされています。ただし、遺言者が遺言で別段の意思を示していれば、その意思に従います。

ここが予備的指定の法的な意味です。「Aが先に亡くなっていた場合にはBへ」という次順位を遺言書に明記することで、最初の指定が実現できない場合の意思を残します。

SUPREME COURT

最高裁平成23年2月22日判決|孫への「自動承継」を否定

最高裁平成21年(受)第1260号 土地建物共有持分権確認請求事件

遺言者Aは、財産全部を子Bへ「相続させる」旨の公正証書遺言を作成していました。しかし、BがAより先に死亡。その後Aが死亡しました。

問題は、Bの子である孫たちが、その遺言によって当然に財産を取得するかでした。

遺言者 A「全財産をBへ」
子 BAより先に死亡

最高裁は、遺言書の記載や作成時の事情等から、Bが先に死亡した場合にはその代襲者その他へ承継させる意思があったとみるべき特段の事情がない限り、その「相続させる」条項は効力を生じないと判断しました。

重要:「長男に相続させる」と書いても、長男が先に亡くなれば、遺言だけを理由として当然に長男の子へ承継されるわけではありません。
予備的遺言の実務的価値:最高裁が問題にした「特段の事情」を死亡後に家族が争うのではなく、遺言作成時に第2希望を明記しておく方がはるかに明確です。
03

「誰かが先に亡くなったら」を3パターンで考える

第1希望その人が先に死亡第2希望として考える例
妻へ全財産妻が先死亡子2人へ一定割合/特定財産ごとに子へ
長男へ自宅長男が先死亡長男の子へ/次男へ/売却して子孫へ
姪へ遺贈姪が先死亡姪の子へ/別の親族へ/法定相続へ戻す
「先に亡くなったら誰へ?」に唯一の正解はありません。第1取得者を選んだ理由をもう一度考えると、第2取得者を誰にすべきかが見えてきます。
04

孫へ行かせるか、別の子へ行かせるか

子が先に死亡した場合、予備的な取得者を「その子の子(孫)」にするとは限りません。

孫へ承継させる考え方

  • 本来その子の家系へ残したい
  • 孫の生活・教育を支えたい
  • 家・事業等をその家系で継がせたい

別の子へ承継させる考え方

  • 不動産管理を任せられる人を優先したい
  • 孫が幼い・管理が難しい
  • 財産の共有を避けたい
「血筋」だけでなく、財産の性質を見ることが重要です。現預金なら複数人へ分けやすくても、自宅・収益不動産・自社株は次順位を変えた方がよい場合があります。

不動産がある場合の遺言を詳しく見る →

05

予備的遺言は「先死亡」だけ考えればよい?

最も典型的なのは先死亡ですが、実務では「第1希望の人が取得しない場合」をどこまで想定するかを検討します。

先に死亡

最も基本的な予備的指定。

遺贈を放棄

受遺者は遺贈を放棄できるため、必要に応じて次順位を検討。

その他の取得不能

相続放棄・欠格等は法律関係が異なるため、文言を一括りにせず専門家と個別設計。

「死亡・放棄・欠格・廃除」を全部同じ意味で書かないこと。相続人への「相続させる」指定と、相続人以外への遺贈では法的構造が異なります。具体的な文案は家族関係に応じて設計します。

WORDING IMAGE

予備的遺言の文例は「第1希望→条件→第2希望」を明確に

考え方のイメージ

第1希望:特定の財産を長男Aに相続させる。

条件:Aが遺言者より先に、または遺言者と同時に死亡していた場合。

第2希望:その財産を孫Bに相続させる。

これは構造を理解するためのイメージです。実際の遺言文言は、相続人か相続人以外か、特定財産か全財産か、同時死亡、放棄等をどこまで含めるかにより変わります。
06

税理士ならここを見る|第2希望に変わると税金も変わる

予備的遺言は法務だけの問題ではありません。第1希望の人と第2希望の人が違えば、相続税の結果も変わることがあります。

変わるポイント確認する内容
相続税額の2割加算配偶者・一親等の血族等以外の人が取得する場合の加算対象を確認
配偶者の税額軽減第1希望の配偶者が先死亡すれば当然使えず、相続人構成も変わる
小規模宅地等自宅・事業用・貸付事業用宅地の取得者が変わることで適用要件を再確認
納税資金第2取得者が不動産だけ取得する設計になっていないか
二次相続配偶者が第1取得者の場合と、子・孫が直接取得する場合で将来の相続回数が変わる
遺留分死亡順序により相続人が変わり、遺留分権利者・割合も変わる可能性
第1案だけ税務シミュレーションして終わらせない。資産規模が大きい場合は、予備的指定が発動した場合の第2シナリオも相続税・納税資金まで確認します。

遺言と相続税・二次相続を詳しく見る →

TAX ACCOUNTANT’S VIEW

予備的遺言を「一行追加」で終わらせない

  • 第1取得者が先死亡した場合の相続人構成
  • 第2取得者の相続税2割加算の有無
  • 小規模宅地等の適用可能性
  • 不動産を共有させないか
  • 第2取得者の納税資金
  • 遺留分の変化
  • 一次・二次相続の変化
  • 遺言執行が現実に可能か

予備的遺言は「もしもの文言」ではなく、第2の資産承継設計です。財産が多い方ほど、第2シナリオまで税務・不動産を確認する意味があります。

07

予備的遺言を特に検討したいケース

夫婦の年齢が近い

「まず配偶者へ」の遺言では、配偶者の先死亡・短期間での死亡も想定。

高齢の兄弟姉妹へ遺贈

受遺者も高齢なら先死亡リスクが高い。

子に収益不動産を集中

その子が先死亡した場合、複数の孫による共有になる設計でよいか確認。

子のいない夫婦

配偶者の先死亡により、兄弟姉妹・甥姪等を含め承継先が大きく変わる可能性。

第三者・法人へ遺贈

個人受遺者の先死亡や法人の状況変化等を想定。

遺言を長期間見直していない

指定した人が死亡・離婚・疎遠等になっていないか確認。

SELF CHECK

遺言の「第2希望」セルフチェック

  • 財産を渡す予定の人が自分より先に亡くなる可能性を考えた
  • その場合、その人の子へ残したいのか確認した
  • 別の相続人へ残したい財産があるか確認した
  • 不動産を複数の孫の共有にしてよいか確認した
  • 配偶者が先死亡した場合の相続人を確認した
  • 第2取得者に相続税2割加算がないか確認した
  • 小規模宅地等の取得者要件が変わらないか確認した
  • 第2取得者の納税資金を確認した
  • 遺留分の関係が変わらないか確認した
  • 先死亡だけでなく、遺贈放棄等をどこまで想定するか確認した
  • 古い遺言の受取人が現在も存命・適切か確認した
  • 家族・財産が変わったときに遺言を見直す予定を決めた

FAQ

予備的遺言のよくある質問

Q. 長男に相続させる遺言で、長男が先に亡くなれば孫が自動的に取得しますか?

遺言の効力として当然に孫へ移るとは限りません。最高裁平成23年2月22日判決は、特段の事情がない限り、指定された推定相続人が先に死亡した場合、その「相続させる」条項は効力を生じないとしています。孫へ承継させたいなら、予備的指定を明記することを検討します。

Q. 受遺者が遺言者より先に死亡したらどうなりますか?

遺贈については民法994条により原則として効力を生じません。民法995条では、その財産は原則相続人へ帰属しますが、遺言に別段の意思を示すことができます。

Q. 「Aが先に亡くなったらAの子へ」とだけ書けば十分ですか?

財産・家族構成によります。Aの子が複数いる場合の割合、未成年者、不動産共有、同時死亡、税務等も確認した方がよいケースがあります。

Q. 相続放棄した場合にも予備的指定は使えますか?

先死亡と相続放棄では法的構造が異なります。「先に死亡した場合」という条項だけで相続放棄の場合まで当然に含むとは限りません。何を条件に第2指定を発動させたいかを具体的に設計します。

Q. 予備的遺言を入れると相続税は安くなりますか?

予備的遺言自体が節税制度ではありません。ただし第2取得者が誰かによって、2割加算、小規模宅地等、配偶者の税額軽減、二次相続、納税資金等の結果が変わるため、税務確認には大きな意味があります。

Q. 公正証書遺言でも予備的な内容を入れられますか?

可能です。むしろ家族関係や財産が複雑な場合は、第1取得者だけでなく、その人が先に死亡した場合の意思まで公証人・専門家へ伝え、文案を検討することが重要です。

Q. 予備的遺言があれば遺言の見直しは不要ですか?

いいえ。予備的指定は死亡順序への備えですが、財産の売却・取得、家族関係、税制、受取人の事情等は変化します。定期的な見直しは別途必要です。

OUR VIEW

遺言は「今の家族写真」ではなく、将来の変化まで考えて作る

遺言を作るとき、多くの方は現在の家族関係を前提に考えます。しかし、遺言が実際に使われるのは何年も先かもしれません。

第1希望

今、誰に残したいか。

もしもの時

その人が先に亡くなったらどうするか。

第2希望

次に誰へ、どの財産を残すか。

良い遺言は「第一希望」だけを書いた遺言ではありません。死亡順序が変わっても、できるだけ本人の意思どおりに財産が承継されるよう、第2シナリオまで考えておくことが重要です。

CONSULTATION

「もしこの人が先に亡くなったら?」まで含めて遺言を設計します

配偶者・子・孫の年齢や家族構成、不動産、相続税、遺留分まで確認し、第1希望だけでなく第2シナリオも整理します。特に資産規模が大きい方、不動産が多い方、家族構成が複雑な方は、予備的指定が発動した場合の税務まで確認しておくことが重要です。

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この記事を担当した執筆者
佐々木税務会計事務所 共同代表 佐々木謙
保有資格
専門分野相続・贈与・不動産・法人経営
経歴経営コンサルティング会社において約10年間、企業経営や事業承継に関するコンサルティング業務に従事。その後、法律事務所にて約5年間、相続・資産承継に関する実務を経験し、大手税理士法人では約10年間にわたり、相続税申告、財産評価、事業承継、生前対策など資産税業務を専門に担当しました。 これまで培ってきた税務・法務・経営コンサルティングの知見を活かし、一般のご家庭から地主・企業オーナーまで、幅広いお客様の相続・資産承継をサポートしています。 現在は佐々木税務会計事務所の共同代表として、「創族(そうぞく)」を理念に掲げ、相続税申告にとどまらず、生前対策、遺言書作成、家族信託、事業承継など、ご家族の未来を見据えた総合的な相続サポートに取り組んでいます。 相続は税金だけの問題ではなく、ご家族の人生に関わる大切な節目です。税務・法務・経営、それぞれの視点から最適な解決策をご提案し、お客様が安心して未来へ歩んでいただけるよう、分かりやすく実践的な情報発信にも力を入れています。
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